昨今のエネルギー問題については、巷で議論活発、時には騒乱・混乱の様相だ。
気象変動は一切の躊躇や容赦なく見舞う。受動側である生物達の抗いや逃避は空しく、適応できなかった種は滅び絶えた――は万物創成期からの理である。
温暖化を人災とし、それをCO2排出規制で償おうとしていることへの小さな疑念と、枯渇する化石燃料資源の代替物として何が好ましいのかの私見を昨冬書いている。
「地球総量の5%にも満たぬ人間由来の二酸化炭素を減らす知恵よりも、広大な海洋にもっとたくさんのCO2を吸収してもらえるように世界が勤しむのだ。具体的には世界各国の沿岸でワカメなどの海藻を養殖したおして、海中のCO2吸収容量を拡大するのじゃぁ」
平たく書けばこのような内容のハナシになるが、毎度おなじみの妄想まじりの与太話ではなく、真剣に研究検討している動きが諸国内であるようなので、実に楽しみなのだ。
上記の原稿掲載から一年足らずの間にずいぶんと情報が増えてきた。
とはいえ私レベルが得られる情報量などたかが知れている。ただ漠然と「現役の間に水素エンジンの自動車に乗り換えできる可能性は低いだろう。あわよくばFCVなら可能かもしれんが」といった程度のことだ。
新エネルギーとして何が最適最善で、それをいかにして実用主力化するのかについては、世界中で検証や考察の最中ゆえ、誰にも正解を断定できない状況ではないか。
個人的には最有力と考えていた水素エネルギーには、実用化までにいくつかの大きな課題があるらしい。特に我々の日常生活や物流業界の未来に直結している自動車に関しては、大きく三つの課題があるようだ。
1.水素の製造法には三つあるが、手法によってはCO2が発生する
2.現状では製造コストが下がりにくく、EVやHEVに比して有利とはいえない
3.水素ステーションなどのインフラ整備にGSの5倍程度のコストがかかる
詳細については資源エネルギー庁の説明ページをご参照願う。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso_tukurikata.html
いずれの課題も国の取り組み方次第では、時間短縮できそうな気がするが、現段では腰が重いままだ、、、というより他の代替エネルギーとの兼ね合いもあって、優先順位の確定と投資方針を決め切れていないと書いた方が適切なのかもしれない。
今回も重ねて言う。エネルギー問題とCO2排出量削減の問題は同根であり連動していることは事実だが、論じる際には切り離して掘り下げたほうが分かりいい。なぜなら地球のCO2総排出量の5%弱程度を占める人間たちの営みが生み出す地球温暖化ガスのうち、その多くは「人類共通の課題」ではなく、特定国家と特定事業者の動向に依存する問題だからだ。
わが国は2050年という期限目標を設けてカーボン・ニュートラルを推進している。
つまりあと30年足らずしか猶予はないが、その成果の鍵を握るのは国内総排出量の約50%を占める製鉄や電力会社を上位とする130の事業所であり、それに続く約10%を占める18の運輸事業者と248の事業所であることはあまり知られていない。
(経済産業省・環境省の連名で2021年3月16日発表された2017年統計を参照 https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210316005/20210316005-1.pdf)
ちなみに人間由来のCO2総排出量に占める日本の割合は約3%。一方で中国・USA・インドの3国合計は全体の50%超となっている。さらに書き足せば、前述の日本国内CO2排出量の約60%を占める運輸事業者を含む400足らずの事業所群を地球全体のCO2排出比率に割り戻すと、その比率は人間由来CO2排出量の2%…つまり全体の0.09%に満たない数字となる。
千里の道も一歩からとはいえ、優先すべき即効性がある施策は、排出統計値の大きな国々のエネルギー調達や排出規制を実現するための産業構造の変革であるのは一目瞭然。
ネコも杓子も唱えて止まぬエコ念仏は市民運動として世論の高まりと一定の実効を生んでいるが、排出巨人という的を射る矢の砥石となって後押しすることぐらいが限界である。
ここで冒頭に書いた「世界中の海にワカメ」という案が再び脳裏をよぎるのだが、それはそれである。環境保全の努力は時代や手法を問わず心がける方がよいに決まっている。
誤解なきよう付け加えておくが、あくまでCO2排出規制の主眼や力点の曖昧化を避ける意図から書いている。個人レベルの努力や日常での意識づけに異を唱えているわけではないし、個の力の結集を虚しいものと考えているのでもない。ただ、努力効果が出やすい国や事業所への働きかけとその情報開示や進捗検証なしに、個人への啓蒙活動を謳うのは筋が違うと考えているだけだ。
ハナシを戻す。
化石燃料の枯渇は否応が無しに迫りつつある。化石が液体化したものが石油、固体化したものが石炭、気体化したものが天然ガスだと認識しているが、それら生物の死骸をエネルギーとしてきた時代は終わりを迎えようとしているらしい。
で、太陽光や風力、波力、地熱、微生物、植物、そして水素。余談だが、いろいろ見聞きしていると「海上に風車を浮かべて、風力と波力の両方で発電する」という手法がよさそうだ。
現状では洋上での風力発電が世界各国で先行しているようだが、いずれは波力発電も具備されたシステムが一般化するに違いない。ちなみに、風車と風力・波力の発電・送電ユニットを海上に固定する錨綱は金属ではなく特殊繊維なのだとか。これももちろん日本企業による先進技術の塊であると知れば、何のかかわりもないくせに誇らしくなってしまう。
代替エネルギーについての楽観は禁物ながら、悲観ばかりするのは目をつぶり耳をふさいで生きるようなものだと自戒すること多い昨今なのだ。
読者諸氏ご承知のとおり、代替エネルギーの主流は電気であり、モータ開発は活況である。
しかしながら個人的には水素燃料を活用した内燃・外燃機関の可能性も保持してほしい。
自動車ならEV、FCVと並んで水素エンジンも併存したらどんなに良いだろうか。往々にして背反するように語られるモータとエンジンだが、BEV・FCVの普及はHEVもしくはPHEVの寿命を延長する効果を生む。つまり石油資源の消費量が減ることで、枯渇期限が遠のくという副産物ができるからだ。
「エンジン」を載せた車の存続は個人の嗜好をはるかに超えて、世界の産業構造にも多大な影響を及ぼす命題となるはず。BEV一辺倒の風潮を誰が仕掛けているのか知らぬが、猫も杓子もEV化すれば、その電力はどこで誰がどうやって賄うというのだろうか。わが国では今冬の電力不足を案じて、節電啓蒙広報や、光熱費上昇抑制に公費投入などと騒いでいるというのに、その同じ口で「EV化はCO2排出ゼロで地球温暖化防止に寄与」とひな壇のガヤ芸人さながらにまくし立てているメディアの多いこと。
国内の自動車がBEV化し、産業用・家庭用の光熱源が電化すれば、現在休止している原子炉を10基以上稼働せても供給が足りるか否かの試算すら確定できていないのだ。
EV化するについては、産業構造の抜本的な変革にともなう莫大な雇用の喪失を受け入れる覚悟を持つと同義なのだが、いったいどれほどの人々がそこまでを踏まえて「EVバンザイ!」と呪文のように唱えているのかが知りたい。
税収を財源とする投資やまとまった事業資金を使うなら、多少の割高感や乗り越える課題の数が多くても、多様で多面的な可能性を探るべきだ。
温暖化は次の氷期に至るまでの厳粛なプロセス――地球という星の寿命サイクルの一過程。
という学説を読みながら「そうであっても思考と行動を放棄することを是とせず、が人間の本能なのだろう」と呟いたりもするが、読者諸氏はいかがお考えになるだろうか。
私は自分自身ができることを余すことなくやりきる、が基本だと思っている。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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