物流よもやま話 Blog

トラックドライバーとの会話

カテゴリ: 実態

つい先日、関与先の現場で準大手運送会社の庸車ドライバーと話す機会があった。
10日後から実施されるトラック運転手の改正改善基準告示の適用直前なので、
「運送の最前線では、どのような具体的対処が元請並びに庸車にまで施されているのか」
を、荷下ろしを終えて一息ついているドライバー氏に尋ねてみたのだった。

守秘と回答者の立場を考慮して、言い回し等には多少の修正や装飾を施してある。
その旨ご了承願う。

肌寒い風が吹く中、小一時間の荷下ろしを終えた庸車ドライバー氏にねぎらいの言葉をかけつつ休憩所に誘い、荷主社員の方とともに来月に向けての働きかたの変化を問うてみた。
彼の回答は予想通りというか呆れてしまうというか、、、に終始していた。
もちろんあくまでそのドライバ―個人の実感や実状であり、荷主が依頼している元請事業者の詳らかで過不足ない内実にまで及ぶものではないだろう。
しかしながら、少なくとも視えてくる現実や変わろうとすらしない体質の赤裸々なハナシが居並んでいたことは疑いようなくあきらかだった。時間にして20分ほどだったにもかかわらず、差し入れの飲み物とお菓子では申し訳ないほどの中身となった。

同席した荷主の責任者と社員の両氏が憤慨していたのは、庸車の請負金額は「来月からほんのちょっとだけでも上がればいいなぁ」で、状況は依然として過酷なままだという事実だ。
というのも面前のドライバー氏に仕事を出している元請運送会社から昨秋大幅な値上げ申請があり、本年1月から新料金が適用されている――にもかかわらずだったからだ。
ハナシを聴いた当日にしても、荷主拠点に絡めて他社2か所の2000㎞超を二日間でまわり、その間5時間ほどの車中仮眠と30分足らずのトイレ・食事休憩が5回。それ以外は「ひたすらに下道を走っていましたし、この後の帰路も同じです」とのことだった。

荷主は割引なしの高速代金が記された見積をすべて認めたうえで代金を支払っているので、ドライバー氏の説明にはかなり気色ばんで怒声まじりになっていた。
彼のハナシでは「元請会社のドライバーも似たような状況だと聞いているし、他の庸車は言うまでもない。車によってはもっと苛酷な条件であることも珍しくはない」とのこと。
ちなみにトラックターミナルや高速のPA、幹線道路の大型車両が駐車できる道の駅や食堂で会話する同業者も一部荷主の直請負を除いては似たり寄ったりだという。
「3月のこの時期になっても、4月以降の請負代金について、元請からの正式な変更連絡はない」というのが庸車ドライバー氏の苦笑まじりのコメントだった。

同席していた荷主責任者氏とワタクシが同じように感じ、交互順番に彼に問うたのは、
「顔色が悪いが、大丈夫なのか」
「仮眠するなら和室休憩室に布団を敷くので、少し横になればどうか」
「せめて高速道路を利用すべきだ」
のような内容だったが、彼の返答は以下のとおりだった。

「高速道路の利用は自分の判断に委ねられており、燃料同様に請負代金の中から費用をねん出する。そうすると手もとにはわずかしか残らなくなってしまうので倹約している」

「顔色が悪いのは自覚しているが、もう何年もこんな感じで走っているので仕方ないと諦めている。ご厚意はとてもありがたいが、長い休憩をとると予定が消化できなくなる」

「くれぐれも元請にクレーム入れるのはご容赦願う。たしかに条件は厳しいが、ずいぶん世話にもなってきた。元請自体もギリギリの経営なのは肌で感じている」

「できれば今年中、遅くても来春までには大型を降りて軽貨物に転向しようと思っている。このまま続けるのは体力的にも無理があるし、経済的にも希望が持てない」

次へと向かうドライバー氏を見送り、荷主責任者と顔を見合わせながら出た言葉は奇しくも「うーん、、、」という同じような低い唸り声だった。
責任者氏は自責の念を拭えぬようで、言葉の端々に「我われが今まで当たり前に値切ったりアイミツ取ったりしてきたことが、彼のようなドライバーを…」という後味が居残っていた。
エッセンシャルワークという社会インフラの根幹を支える仕事の本質は自己犠牲と同義ではないはずなのに、結果的にそう追い込んでしまっているのは消費者の集合たる社会。
廉価サービスや低価格品を求めて止まぬ消費者の深層心理や可処分所得が減じてゆくばかりの家計状況は、国の構造的な仕組が生み出した不可抗力ともいえる現実なのだろう。

荷主や請負側の運送事業者に即時即効性が期待できるのは、正論たる「価格転嫁」の推進や実施監視ではないと考えている。下請法違反状態の是正強化ならば、イロハのイは公正取引員会の出番となるはずだが、直訴や調査協力に消極的なのも法の庇護を受けるべき下請事業者の実態である。メディアや業界団体が突っつくべきはそこだろう。
商流全体で価格競争を統制しない限り「価格を第一に置く競争原理」は今後もなくならない。
とはいえ市場への公的介入は往々にして不健全極まりなく、かつ不首尾に終わることが多い。

法定労働時間を順守し、残業時間の上限制限することが「危機」や「破綻」という状態を生み出すのであれば、2019年に先行して働きかた改革を実施した他業界でも同じような大騒ぎがあって然りだったはずだが、社会問題として表面化した記憶が薄いのは私だけなのか。
ひょっとしたら今もなお沈黙の破綻や常在する危機があるのかもしれないが、少なくとも一般生活者には知らされていないし、何らかの支障が顕在化しているとも報じられてはいない。
もっとも労務上の問題を抱えていない業界自体が存在しないような気がするのだが。

国内市場の全業種に共通する基礎条件は「労働人口が減り続ける」という不可避な事実であるが、消費自体も縮小するので物流的には折り合いが付けられそうだと思っている。
たとえば自滅的に有名無実化してしまいそうな「標準運賃」からの一定程度の乖離を認める代わりに、「運送所要時間の許容拡大」を社会啓蒙し、実務上で徹底させてはどうか。
所用時間を3割から5割程度拡大するだけで、大幅なコストアップをせずとも荷が運べる。高速道路不使用もしくは一部使用で、一般道優先走行でも必要な睡眠と休憩が確保できる。
そのために行政主導で推進すべきの第一は、主要幹線道沿いに大型車両が停車休憩できる施設を拡張や新設することだ。たとえばの試案として、昨今増加の一途であるスーパー銭湯や超大型商業施設に専用スペースを設けてもらうように働きかけることなどが思い浮かぶ。

「高給優遇や憧れの職業ともてはやされようと夢みているわけではない。職業ドライバーとして普通の暮らしができる所得と体調維持に支障がない労働環境が欲しいだけ」

関与先倉庫のヤードで庸車ドライバー氏の背中を見送りながら、そんな声が聞こえたような気がした。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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