物流よもやま話 Blog

物流現場の「地震みち」

カテゴリ: 本質

「地震みち」という言葉を最近知った。
現在では「異常震域」という専門用語がそれにあたるのだとか。

【異常震域】
震源地より遠く離れた所で異常に震度が高くなる現象である。かつて地中に地震が伝わる特別な抜け道があると考えられ、地震みち(じしんみち)と呼ばれていた。(Wikipediaより)

震源から遠く離れた場所で地震が発生する。硬い海洋プレートを伝播して起こるのだとか。
物流現場のミスやトラブルの因果に似ている。
揺れの激しい地域の住人たちは災害に翻弄されるが、その震源の表層場所は何事もなく平穏で普段通りの日常。
図解付きの説明を見聞きすれば「あぁ、なるほど」となる。しかし、そんな測定分析結果を知らされていない時点での震源と震地の「その時」はまったく異なる様相となる。

企業物流の現場でも同様の現象が頻繁に起こっている。
地震の場合は震度とともに震源地とその深度、エネルギーの大きさが周知されるが、物流の場合にはそうはいかない。
揺れるたびに大騒ぎするが、多くの場合は自分たちの足下に震源があると信じて疑わない。
なので震源を探したりはしない。専ら揺れに因る被害を測定する。
そして懸命に耐震や制震や免震などの「揺れたら」という対処施策を延々と練り続ける。
「これでいい」とならないのは、毎度揺れるたびに被害が出るからであって、前回の震災時に万全を講じたはずの対策は不十分だった――と、困惑したり諦め半分だったりしつつ、新発見的現象について会議をし、過去の似通ったレポートを再び上書きして報告書を作成する。
ずーっと繰り返される物流現場の右往左往。
同じく管理者のヒアリングと作文。
本社の決裁者のコメント付きの承認印。
イレギュラーなミスの事後処理の段取りだけはルーティン化。
離れて観察すればその様は奇妙この上ないはずだが、疑いや異を唱える者は少ない。

倉庫内部で地震さながらの大事件が発生したら、その原因が通ってきたはずの「地震みち」にあたる情報や指示系統のルートをたどることが初動の肝心。
現象としての表層だけを見て早合点せず、目を凝らし徹底したヒアリング。
震源たる「原因が生まれた場所とその理由」を正確に把握し丁寧に処置すれば、現場では同じ震災は起こらなくなる。
人間の力が及ぶことはありがたい。自然相手ならそうはゆかぬ。
物流は機能であるから、すべての作業は理詰めで分析・検証・解決できる。
誰が取り組もうとも、正しい思考と方法を採れば、必ず正解が出せる。
最大の難所は、正解を導く式ができて、全員が共有しているにもかかわらず、それを曲げたり違えてしまう「魔が差す」という人間特有の感情や衝動なのだ。
加えてありがちなのが、部門間の調整や立場や都合などによる、進捗障害という顧客不在の内部要因。これについては各社の意識や良心の問題なので、書くに及ばない。

OJTの約束事を守っていれば何も起こらない。
OJTにない余計なことをしてはならない。
OJTで習得した内容を勝手に端折ったり追加してはならない。
OJTにない問題が発生したら、すぐに管理者に報告し、指示を仰がなければならない。
OJTで与えられた役割以上・以下の言動は必要ない。

などの「ない」で終わる引算の集合体が良質の現場を生み出す基礎となる。
必要最低限の設えと簡素な業務フローで運営されている倉庫現場では、物流的「地震みち」の追跡に障害物がないために、短時間で正しい震源にたどりつける。
震源でするべきことは言うまでもない。
揺れの元となっている「原因」を消し去るか修正することだ。
組織論や人間関係などの情緒的にしかすぎない暗黙の障害物の存在に気付いているなら、経営層が除去しなければならない。
できない理由は何も生み出さないので禁句。
それを大前提にすべきなのは明白だろう。

倉庫の業務障害を突き詰めれば、人に行き着くことは言うまでもない。
揺れの震源はプレートではなく、人間がドタバタと勝手に動き回っていたから。
しかも動いている当人たちの床はその振動を吸収して、社内の業務ルートを通って物流現場で発散する。
震災慣れしている倉庫管理者やスタッフたちは、毎度のルーティンであと片付けを行う。
被害は出たが、会社が揺らぐほどの規模や程度ではない。
したがって、物流部門内で処理すれば波風はたたない。
犯人探しも不要。穏便に事が済む。
そんな内実を経営層が知れば、驚きと冷や汗の後、すぐに手を入れるに違いない。
しかしながら残念なことに「知らない」ことがほとんどである。
業務トラブルの軽重を個人判断しその都度の対処に終始することがいかに危険なのかを認識できている管理者は存外に少ない。
「地震みち」を通る揺れが生まれる本当の場所と理由を知らないからなのだろう。

与えられた責任と現状の能力を考慮すれば、自損事故でも一定の情状酌量はできる。
むしろより上位にある経営層たちの現場不知やレポートラインの不備がはらむリスクの大きさのほうが気がかりで仕方ない。
物流業務の基本設計から現場OJTと検証までを、誰が責任と権限をもって管理しているのか。
実務上の具体論以前の経営問題として、戦略と方策と計画ぐらいまではトップ以下の執行役各位は理解・承知しておくべきだが、実態はどうだろう。
手間と時間が多少かかるが、最初だけのことであるし、相応の成果が見込めるのだから躊躇せずに着手していただきたい。
現場が費やす長い時間と大きな労力が、経営層の数時間のヒアリングや考察、業務ルール改変に必要な決裁などによって、大幅に縮小される。廃止や割愛されるものもあるだろう。
「もっと早く手を入れていたら」
そんな経営層の声をたくさん聴いてきた。

物流業務改善の相手が海底の地殻プレートでなくてよかった。
人間相手なので言葉が通じる。
そして説明と修正で解決できる。

地底の継目で生まれる地震。
会社の部門間や階層の継目で生まれる物流トラブルの種。
生まれた場所ではなく、離れた場所で被害が出る。
地球相手なら根本処置は難しい。
人間相手なら絶対にリスク解消できる。
そして明瞭簡潔で無駄の少ない物流機能が手に入る。

即時着手の一択でご判断いただきたいと切に願う。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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