物流よもやま話 Blog

倉庫の引越し「空飛ぶ床」

カテゴリ: 実態

先月告知したとおり、GW前に本社機能を移転した。
新オフィスは期待以上に快適。
ゆっくりとした柔らかい空気の中で働くことのありがたみをかみしめている。

が、もう引越しはしたくない。
という強烈な後味のような印象が今も生々しく残っている。
業者さんにほぼお任せだったので、荷造りや荷運びなどは何もしていないが、移転後の微調整だけでヘトヘトになってしまい、それは現在も尾を引いている。
自ら望んだことではあったが、その代償はけっこう大きかったというのが偽らざる実感。
段取り通りに運んだとはいえ、やはり最後はぐったりだった。
自分事と仕事は大きく違うものなのだな、と改めてうなずいている。

過去にいくつもの倉庫移転を手掛けてきた。
「企業の数と積み地・下し地の数だけパターンがある」
などということはない。
たいていの場合パターンは決まっていて、要所となる点はほぼ共通している。
依頼者である荷主企業の倉庫移転には、自社→自社、自社→外部、外部→自社、外部→外部、という4パターンしかないし、移転時の荷造りとそれに関連する諸段取りはほぼ同じ趣旨に則り、作業手順と人員配置、時間割を組む。
移動手段の手配と所要時間、それをどう割り振るのか?も現場なりに考えるが、根本的なところは共通していることが大半。
移転先での荷下しから業務再始動までの計画と作業の進捗管理も、荷主や現場によって原則や順守事項が変わることなど皆無に近い。

「どこのお宅でもそんなに変わりませんよ。荷物の多い少ないや搬出入の経路の違いはあっても、段取りや作業の中身はほぼ同じです」
という弊社引越しを担当してくれた現場責任者の言葉が印象的だった。
物流倉庫の移転も小さな引越しも、根本は同じなのだと再確認した。わかっているつもりだったが、改めて基本の諸事は現場や規模に左右されないと納得した次第。
相似形への収束手順策定とその下準備は大原則であり、必須事項として厳守しなければならないことなのだと思う。

以前に書いた記憶があるが、弊社の移転作法を一言で言い表せば、
「移動の最中、もし緊急の出荷依頼が発生し在庫引き当てが行われたとしても対応可能。移転先に向かう10t車の中でピッキングができる状態にして移動梱包を施してあるので」
と、やや反り身のドヤ顔が思い浮かぶような言葉を使いたくなってしまう。
当然ながら、現実にはそんな事態が発生するはずないが、心意気や仕事のさばき方を伝えるためにあえて誇張している。

新倉庫で可及的迅速に現場設置を終えて、最短時間で引き当て可能な状態にするには、旧倉庫から荷が出る時点ですべての下準備を含んだ手配が終わっている必要がある。
引越しのための梱包ではなく、移転先での業務開始のための準備でなければならない。
極論ではあるが「現倉庫の床面が宙に浮いてそのまま移動する」ようなイメージを思い描いて移転を行わなければならない。
建物構造や搬入経路、階数、荷役用の設備などの条件もすべて織り込んだうえで、常に同じような方法論と効率を維持することが玄人の仕事だと考えている。
この場面でも物流専門職の養成プログラムが役に立つ。
イメージスクリーンは計画書や作業フローのチャート図を作成する場合にも効力大だからだ。

何よりも倉庫移転は千載一遇のチャンスである。
今まで手を入れることができなかった、
「現在の業務フローの全体と個別パートの検証と評価」
「作業に寄生している害虫の正体解明と徹底的な駆除」
「現場にこびりついた悪意のない悪玉菌の特定と消毒」
を隅から隅まで徹底的に実行できる。業務が止まっているので、迂回や不規則な順番を考える必要はない。迷いなく手加減なく余すことなくやり遂げればよい。
書き出せばできることは他にもあるが、上記は優先順位が高く、ほとんどの企業に共通して必要な項目でもある。
個別に潰すというのはお勧めできない。労多くして功少なしの典型だからだ。

すべての項目について、対処的措置や直接の処理を一切不要にできる非常にシンプルで単純な方法がある。
それは「基本的な業務フローの再設計」とそこから下ろした作業手順の導入。つまりはOJTの徹底によるプリンティングである。
腕の見せどころは「それをいつやるのか?」に尽きる。
移転前か移転後か。
上述した4パターンの移転形態ごとに着手の順番が異なるだろうし、時間的な猶予も事の前後で異なる可能性が高い。
つまりは、、、
、、、ここから先は有料とさせていただきます。笑

これ以上熱が入ると全部書いてしまいそうになる。
出し惜しみする気など毛頭ないし、複雑で難解なノウハウでもないのだが、どえらく長くなるし、その割には伝わりにくかったり、表現に悩む要素も多い。
そもそもが「よもやま話」ではなくなってしまう。
その旨、悪しからずご理解のほどを。

以前にもまして、今後は倉庫移転の数が増えると考えている。
巨大倉庫の新設は衰えをみせず、関東圏ではすさまじい勢いで建設ラッシュともいえる状態が続いている。
基調としては、旺盛な需要に応じた供給に見える。しかし、各企業の「旺盛な需要」とは、縮小し続ける国内市場への対応策として物流拠点集約は不可避の選択、というケースが多い。

その実態を心得ている倉庫ディベロッパーは、需給が均衡しているように見える今のうちに素早く契約してしまいたい、という動きを強めているに過ぎない。一定以上のディスカウントを水面下で提示し、竣工前に「満床」を謳うことで、さらなる新規需要の喚起を促す。
新築マンションの販売と似たり寄ったりの手法だが、業の宿命として他の手立ては講じられないのだろう。
「貸し抜け」という身勝手な造語を思い浮かべて、大手のディベロッパーや仲介業者のコメント記事を斜め読みしている。

空前の倉庫建築ラッシュによる膨大な床面積の供給が、わずかな時間差の後に何をもたらすのかは自明。
BTS型ではなくマルチテナント型の物件が圧倒的多数を占めているのは、企業戦略の固定化回避マインドに即した柔軟性と流動性の確保。
なんていう建前の裏側に「短期勝負で貸しやすくする」という本音が透けて見える。
遠巻きで野次るつもりはない。何を隠そう、自分自身も閉塞や狭窄をイメージさせる現状に抗いながらも、具体的な有効策を提示することに足りていない。
建てる側も使う側も限られた選択肢しかもてないという現状を認めているくせに、ついつい愚痴や斜に構えた言葉を吐いてしまっているだけなので、関係各位はご容赦願う。

新築の倉庫には天から荷が降ってくるわけではない。
「どこか」から既存の荷が動いてくるだけ。それが新業態の新規立ち上げであろうと、既存事業からの業態変更であろうと。
一企業の総荷物取り扱い量、つまり物流総量はあまり変わらないだろうし、よほどの好況業種でない限りその業界内での総量も一定範囲に収まっているはず。内部での陣取り合戦が激しくなってはいるものの、それ自体は勝者と敗者を分かつ結果しかもたらさない。つまり必要な総床面積や総労働量もたいして変化しないということではないのか。

ならば、売れた床の背後には売れなくなった床が必ず存在する。
空いた床の貸主は、条件を緩和してでも次の荷を求めるに違いない。
最新仕様ではないが、好条件の程度の良い中規模倉庫が多数流通するだろう。
都心のオフィス事情と全く同じ動向とお考えいただければわかりよい。
最新の「インテリジェント&スタイリッシュ」なビルの建設ラッシュで割を食ったのは、小さくて古い雑居ビルではない。
そこそこの規模、たいして古くない、体裁も悪くない、のような中型以上の物件だったはず。

倉庫でも同じことが起こる。
かつてなら与信や最低区画の貸出基準を満たせなかった事業会社に、新しく設定された条件が次々に提示される。
数年前なら選択肢として考えることもなかった倉庫を、今や当たり前となっている「以前なら破格条件」のもとに契約できる荷主企業が増える。
結果として、倉庫移転が活発化する。

長くなったが、倉庫の引越しが増える理由は以上のとおりである。
逆パターンも書きたいが、それはまた別の機会に譲りたい。
一般事業会社の皆様は、ちまたにあふれる是々非々の区別がつかないような記事に惑わされることなく、自らが実感として持ち合わせている「基調」を大切にしていただきたい。
市場の中でもがき苦しみ、既存顧客の囲い込みと維持、新規顧客の獲得に日々勤しむ実業者の皮膚感覚は正しい。
少なくとも私はそう信じているし、自分自身で見聞きした現実しか口にするつもりはない。

オフィスが変わっても中身は変わらず。
倉庫が移転しても、企業マインドの根元は不変。
自社の引越しを経て、そんなことを徒然に考えたのだった。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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