学生時代のことを想い出していただければわかりやすいと思うのだが、試験の際に時間の余裕があれば自分の答案用紙を何度か見直す。
いわゆる「間違い探し」というやつだ。
私は横着極まりないので、全部書いたら見直しもせずに提出して、外でぼ~っとしていたが、多くの同級生は時間切れまで何度もチェックを繰り返していた。
しかしながら、見直しをしても自身の答案用紙を客観的にみるのは難しい。
個人差があるのだと思うが、私の場合はその典型だった。というか真面目・まともに見返していないから、間違い探しになっていない。それに気付いてからは、書き終えたら即提出を毎度のこととしていた。
読者によっては拙ブログを「推敲なしで一気に書いて、校正もせずに掲載しているのか?」とお感じなるのは、何十年も前から性根が全く変わっていないゆえとご批判いただいても反論の余地はない。
蛇足だが、人生の間違い探しもしたことはない。生き方の推敲や校正なんてぞっとする。
これは横着ではなく、単純に恐ろしく怖く、事実と向き合うことに絶対耐えられないに決まっている、という臆病極まりないチキンおっさんの典型であるからとご批判いただいても、やはり反論の余地はない。
というようなことを長々と書いている場合ではない。
他人が同じことをすれば一見一読で「ここは間違えていますよ」と即座に指摘できるようなケアレスミスでさえ、自己解答については見過ごしてしまうことが多い。
物流倉庫の業務もまったく同じ。
責任者以下全員が、何の疑いもなくアタリマエと信じて日々こなしている業務の流れは、他者からみれば「不効率」「不合理」となることが多々ある。
しかし、当事者たちにはその点がわからない。
不遜なのでも鈍感なのでも怠慢なのでもない。
単純に気付かないだけだ。
気付いたり疑念や違和感を抱けば即座に手を打つに決まっている。
倉庫業務はひとたびルーティン化すると、日常の景色のようになってしまうことが多い。
それゆえに業務フロー設計時と導入時のOJTによるプリンティングは、庫内作業の効率や品質と、その企業の物流レベルに何年間も大きな影響を与える要因となる。
普段の景色にミスやトラブルの種がまかれていなければ問題ない。
が、ここでいうその「種」は芽が出ただけではありふれた雑草にしか見えない。
急激に大きくなる特性と、抜いたつもりでも深いところに根が残っているので何度でも生えてくることに気づいた時には、業務に大きな傷が残っている。
畑の土の一部を取り換えるような大ごとになることも多い。
なによりの戸惑いのもとは、今まで普通に草むしりしていた雑草を、突然「とても害のある植物」と指摘されることに他ならない。
雑草が生えると抜く、という長年の習慣は間違いだっという結論になる。
「顧客対応の変化」という言葉の前では、全部門が黙して従うしかない。
間違い探しの基準も変化する。なぜなら正解がかわってゆくからだ。
EC台頭著しい現在から将来では、「カイゼン」という言葉は「アタリマエ」という購入者の意識を満たすための調整や変化と同じ意味。
今後は「業務改善計画」を「消費者アタリマエ意識対応計画」と言い換えて仕事をしなければならないのかもしれない。
「・・・・・は、常識ではないですか?」
「・・・・・は、普通のことですよね?」
「・・・・・は、そちらの非でしょ」
「・・・・・は、どこでもちゃんとしていますよ」
「・・・・・は、言うまでもないことです」
「・・・・・は、購入者に何の責任があるというのですか?」
「・・・・・は、そういうショップの体質なのだとわかりました」
こういうふうに書くと、きつく感じる向きも多いかもしれないが、物理的なトラブルや自身が勝手に過大評価していたかもしれない期待を裏切られたと感じている「お客様」には、いかなる理屈や説明も通じはしない。ひたすらにお詫びし、その後のご要望を丁寧にヒアリングしたのちに、ショップがそれなりの対応策を提示する。多いのは全額返金や代替品だけでなく既送分の返品不要対応など。つまりは「お手元にあるお品は差し上げます。もちろんご要望なら同じ品物を再送します」ということだ。
いわゆる「ごね得」の常習者も少なくないが、わかっていても対応しなければならない。レビュー欄が荒れたり、評価を下げる採点を書き込まれるのは避けたい。他店が早くマート事務局に告発してくれればよいのに、、、
というECショップは山ほどある。
自社倉庫なら、現場は営業やカスタマーサービスなどからのフィードバックで、このような事態や情報を得るのだろうが、その都度困惑すると思う。
業務ルールに従って真面目に一生懸命仕事をしている。間違いに気づけば必ず直すし、丁寧な作業を心がけている、、、いったいどこがどうダメだというのだ。
伝言ゲームのようにお客様の言葉や要望を説明され、「次回からの修正点」と課題化されても困る。なぜなら現場だけでは顧客の求めるサービス詳細に対応できるはずないからだ。
そもそもがカスタマーサービスや営業マターのハナシなのだが、即座に具体策が打てない関係各部門は、送って送って物流に球をパスする。
庫内作業では始まりから終わりまで個人裁量など認められていない。課せられた業務ルールの順守と生産性の維持を黙々とこなしているだけだ。
梱包などの変更にしても、どう変えればよいのかは現場では判断できない。
責任者といえども、業務フローや作業の仕様変更は簡単なことではない。
「同じ絵面のジグソーパズルで、いくつかのピースの形を変える」という類のオーダーが漠然と打診されたりするが、それはもう違うパズルを作るに等しいとわかってほしい。
他部門が「改善計画書」を作成して、社内合意を得る。
しかし具体的に実行する物流現場では、文章をプリントアウトするようにはゆかない。
機能部門に柔軟で弾力的な対応を求めるなら、具体的で事前準備の期間を設けた段取りが必要なのだ。トラブル発生のたびに、とってつけたように善後策を講じては、最終ラインにロングパスを放り込むような顛末は良い結果をもたらさない。
自社物流では業務手順や作業内容の変更をする場合、情報の流れをさかのぼって、発生した場所での確認と理解が必要になる。
課題確定→対応策検討→方策決定→関与部門への確認通知→物流部門への通達。
という流れでは、目論んだ効果が得られない可能性が高い。
現場をわかっていない人間が現場の動き方と指示を出しているからだ。
では、どのようなフローならよいのか。
課題確定→物流部門を交えた関与部署会議→対顧客施策と現場対応の要綱策定→一定期間後の実施計画の関与部門への確認通知→物流部門の実務実行。
これならば少なくとも「できること・できないこと」の判断は初期段階で判別可能になる。
物流現場の対応可能範囲と要する時間を関与者全員が知ることで、顧客対応のための無理ない業務改善案が策定できる。
自社物流の最大の強みは、全員が同じ船の乗員であるということ。
無事に目的地を目指す航海を願わないクルーはいない。
「必ず問題解決できる」
各部署の全員がそう信じ、最後尾でオールを黙々と漕ぐ物流現場とのコミュニケーションを深めることも怠らない。
だからこそ数多めぐってくるトラブルや課題に面した時もゆるぎなく進み続けられる。
そんな思いを胸中で繰り返しながら、企業物流の改善業務に取り組んでいる。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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