物流よもやま話 Blog

EC物流どうでしょう?地方自治体殿

カテゴリ: 経営

10年ほど前に近畿エリアのとある地方自治体に招かれた。
特産を記せば誰でも知っている市で、歴史的にも有名。
もはや記憶におぼろな「ふるさと創生事業」の際にはお手本ともてはやされたのだとか。
中核となっている市が近隣の市町村を合併し、面積も人口も拡大した。
と同時に、同一市内に同機能の行政施設と福利厚生施設、文化施設などが重複して存在するようにもなった。
教育施設については、人口減少の市町村ばかりの寄せ集めゆえ、一気に施設数が集約された。

建前としては「合併・統一」だったが、外郭の太線をぐるっと引いただけで、内側には従前の線引きがはっきりと残っている。
住所表記が変わり、役所関係の書式も変わり、今まで利用していた施設が廃止になり、役場の職員や出入り業者も徐々に減りつつ変わっていった。合併は栄えるための必要条件と連呼しながら、短期間に有無を言わせぬ地図の塗り替えが行われた。
しかし住民が実感できる効果や新しい合理的な制度はまだないという。
「お粗末なもんです」と市役所の関係者は一連の説明の後、ポツリと漏らした。

朝の10時から夕方まで、ほぼ丸一日かけて市内の各種施設を案内された。
華美で豪奢すぎる建物。いったい誰がどれほどの頻度で利用していたのか。
そもそもの設置意図が理解できない施設も多数。
「ハコモノ」は行政と相性が良い。
大阪なら南港エリアでその残骸がたくさん見学できる。
あきらかに空虚で住民生活に寄与しない建築物ほど街を寒々しくするものはない。

この数年来、EC専業企業の台頭がめざましい。生活者のニーズに合っているからこその増加と定着であることは疑いようがない。多産多死の傾向は依然あるものの、顧客囲い込み型の正統派も目立つ。
大消費地・人口密集地を避け、地方都市で悠然と本社を構えている企業も少なくない。
何よりも素晴らしいのは、雇用を生み出し、若年層の地元就業もしくは復帰就業の受け皿となっている。
過去に直接訪問した数社の社内が思い出される。唸るように感動した記憶がある。

この話題になると、いつもよぎる想いがある。

下記ECサイトで購入者された皆様に質問です。

「あなたはアマゾンジャパンの本社所在地を知っていますか?」
「あなたはロハコの本社所在地を知っていますか?」
「あなたはヨドバシカメラの本社所在地を知っていますか?」
「あなたはイオンやセブン&アイの本社所在地を知っていますか?」
「あなたは楽天の本社所在地を知っていますか?」
「あなたはZOZOTOWNの本社所在地を知っていますか?」
「あなたはDellジャパンの本社所在地を知っていますか?」
そしてもう一つ。
「届いた品物が発送された倉庫の所在地とその外観や庫内に興味がありますか?」

はたしてすべてを正解し、倉庫にまで想いを馳せる方がいるのだろうか?
「皆無」と断言はできないが、ほぼゼロに近いはず。

たとえば、アマゾンのユーザーは発送地名を認識できるが、それは自己アカウント内の購入履歴画面をこまめにチェックしているからであって、確認の後には無表情で画面を切り替える。(2019年2月現在は配送状況の表示が変わり、発地FCがわかりにくくなった。)
つまり購入者は企業の売り物には厳しく見極めて意思決定に慎重だが、そのフェーズを抜けてしまえば、その企業の所在地や物流センターの場所や建屋の外観や庫内の状況などほとんど気にしない。(初回購入時に限っては、会社所在地の確認ぐらいはするかもしれないが、予想していなかった海外でもないかぎり都道府県によっての好悪は抱かない)

地方自治体の関係者諸氏にご提案するのだが、EC企業の誘致をご検討されるべきかと。
ふるさと納税に依存したり、依存したくても叶わない現状を憂うなら、ひとつの選択肢として検討する価値はあるはずだ。
現存する施設を全部並べて、その建物の構造や見取り図、床面積・天井高等を書き足して、物件概要的な資料を作成する程度の手間なら、大したコスト勘定にはならない。
転用できる施設の判別や加工と工夫は弊社にお任せいただければ万全、と厚顔ながら約す。
利用可能という判断に適う施設があれば、宣伝する価値はおおいにあると思う。

EC専業企業の場合、オフィスの立地はひとえに「人材募集」という要素に重きをおいている。いまだに「本社所在地は会社のステータス」と思い込んでいる経営者もいるが、購入者はそんなことを求めてはいない。物流センターがどこにあって、どんな建物で、どんな設備なのかにこだわって買い物する人は皆無に近いのと同様である。従って、雇用の問題が最大の課題で、それは現スタッフと新規採用の両面から考えなければならない。
テレワーク未導入もしくは導入になじまない業務が社内に存在するなら、都市部でしか働きたくない、見知らぬ土地に転居したくない、という人材を失う可能性は否定できない。
現地採用を試みても、好ましい人材が得られる保証はない。移転後の経営状態が良好で、地方所在企業での労働が公私ともにいかに充実したものなのかを前面に出した募集広告が打てるようになるまでは、人材面で不足を感じる可能性が大きい。
ただし物流機能については、ECほど場所や設備を選ばない業態はなく、個配会社への事前確認だけを綿密に行えば、立上げから巡航までに大きな難所はない。

なによりも自治体の得るものは多い。

第一の効果として雇用が発生する。
本社機能と物流機能を併設すれば、労働人数は大きくなる。
(とはいえ併設効果でかなり省人化できる。企業側は拠点集約による最大効率を得られる)
結果として地元出身者が戻るための受け皿ができる。もちろんその他の転入者も増える。
物流現場のスタッフは地元住民を雇用できる。
業務フローとOJT規定が明確になっているなら、年齢や性別は大きな問題にならない。
その点についてはロジ・ターミナルが設計と実施計画策定者として約す。

第二に、若年層の増加により婚姻や出産が伴う。
自治体が住宅や子育てに関する手厚い支援策を講じれば、結果的には企業誘致に寄与することとなる。特に子育て支援については高齢者の労働力を活用、その逆の若年層による高齢者サポートも同様に充実させて、コミュニティ形成効果を併せ持った策を用意すべきと考える。
国内の様々な自治体の成功事例はたくさんあるので、参考にしつつ独自の制度設計をすればよいのではないだろうか。
最大の効用は消費が生まれ、納税が発生し、自治体の独立性と将来性の一助になる。
誘致企業の固定費が下がり、従業員の可処分所得が維持もしくは増え、さらには以前よりも消費物価や住宅などの取得費や賃借料も下がれば、当然ながら家計に余裕が生じる。
通勤時間は大幅に短縮されるにちがいないので、可処分時間も増える。

第三に、成功事例は必ず話題になる。
その情報が呼び水となり「ECするなら〇〇市で」といった口コミと自治体からの積極的な広報によって、更なる拡がりが期待できる。
結果、第一、第二で述べた事象の循環が生まれる。

自治体と地元住民と移転企業とその企業で働く人々の「四方よし」という絵図が浮かぶ。
不使用のまま老朽化してゆく休眠施設を転用することで未来を得る可能性が大きくなるなら、何も迷うことはないと考える。
その施設の入居企業が発展して、より大きく利便性の高い建物を欲するときには、その近接もしくは近隣で新社屋建設をサポートすればよい。優遇条件の借地契約などを適用して、上物は自前で建築してもらう。
まさに「地元企業」が誕生する。

すでに仮想の企画案を作成している。
いくつかの自治体の対象となる施設も大まかなリサーチ済み。
もともとが税金を原資とするコストセンターとして、各種行政サービスや公共福利サービスを行っていたのだから、建物賃貸から大きな収益を期待する必要はないはず。
行政の追及する「結果」とは地域の繁栄だ。
事業の結果として住民や企業からの税収が増加するのならば、それはひとつの正解であると思うのだが、各自治体の諸氏はいかがお感じになるのだろうか?

格安の使用料金と従業員への厚遇誘致。
個々の自治体が考える「楽市楽座」を想うとワクワクする。
くすぶり続けた企画案をやっと実行できることが嬉しくて仕方ない。

物流とコミュニティのかかわり方や社会資本の再活用と雇用に、物流が寄与するための方策。
そのサポートや推進は弊社の社会関与として追求し続けるテーマだ。
大都市の孤立地域や過疎化する地方都市のコミュニティ再構築に寄与する域内物流の企画立案も並行することになるだろう。

巨大な建物や高額な特殊設備は不要。
速い通信回線の敷設環境があれば最先端のシステムも不要。
物流業務の長いキャリアや読むのに時間がかかる実績一覧を持つ人材も不要。
老若男女それぞれにできる仕事があるので雇用条件の偏向は不要。
利権やしがらみは絶対不要。

こんな感じで考えているのですが、自治体運営側の皆様、ECとその物流どうでしょう?

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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