物流よもやま話 Blog

RFIDワールドへの道と関所通行料

カテゴリ: 実態

少し前のことになるが、RFID;いわゆる「ICタグ」の講習会に参加した。
数年前から情報は得ているし、顧客から導入相談されたこともあった。
ある程度は理解しているつもりなのだが、系統立てて基本から学んだことがない。
というわけで、初心にかえって学んでみよう!
と申し込んだのだ。

「公的機関主催」の体で募集するが、実際は私企業の自社商材啓蒙と営業プレゼンらしい。
従ってタイヘン如才ない。無料でお茶まで出してくれる。
企業の営業活動なのだから、中身は参加者にとても親身で愛想と揉み手が絶えない。
にわか仕立て丸出しで、気の毒なぐらいたどたどしいデモ係の説明と物流現場事情の不勉強は苦笑を禁じえなかったが、冗長なプログラム以外は好感の持てる進行だった。

「感知する・一瞬で・大量に・軽薄短小・廉価普及」

などの謳い文句が「RFID」の最大の推し。

大手コンビニ5社が100000000000枚(いっせんおくまい)の商品貼付を決定!
将来的には@1円が期待されています。100万ピースでも100万円しかかかりません。
……はたして額面どおり真に受けてよいのか?

ではこういう問いかけに対してはどうか?
「感知しない・順番に・一個ずつ・人間の眼と共に・簡易導入」

相当の工夫と手間をかけないと全部できないらしい。

そのへんの肝心要なところは、ぜーんぶ自社システムのカスタマイズと付属オプション導入で企業なりに加工してほしいとのことだった。
説明者は簡単に言い放ったが、そういう気の利いた仕掛けはタダではない。
つまりデファクト化を否定しているのが現状とも解せるので、導入は時期尚早ということか?
タグ製造メーカーは海外なので、国内の取扱いは襟ネーム屋さんとか問屋などの中間流通介在者。
当然ながら中堅から大手のシステム会社も黙っているはずがない。
一枚プリントアウトするのに数円のバーコードを活用するために、数千万や億を超えるシステムが必要。追加カスタマイズやメンテナンスでさらにドン!、、、輝かしい過去。
それと同じ匂いのする好機到来と手ぐすね引かぬわけがないのは当然だろう。

あくまで私見だが、企業物流の事務や現場作業への寄与にさきがけて、動作不安定や不具合、管理システムの機能不全やタグの読み取り障害、端末画面での操作混乱。そして「新しくて素晴らしい」モノに毎度お約束化している、当初予算の大幅超過と実用性の不足を総じての、「過剰コストだった」という評価への危惧が過った。
ショールームで行われたデモでの場面設定など現場では通じないし、独善と自己都合で練られた想定の下、瞬間芸に近い小技を何度も練習してデフォルメしているので、現場を知る者には「?」マークの連続である。
「これはひょっとして、、、笑わそうとしているのか?」
と終始笑えずじまいのまま、げっそりし続けたのだった。

個人的な感想としては、利点よりも欠点のほうが目立った。
バーコードなら関西エリアでいう「ニナキ」にあたるダブルカウントが、カートン内やパレット上にある全品に及ぶ。
デフォルト状態なら一瞬で音もなく感知するので、作業者の手許ではコントロールできない。
末尾のシリアル番号かログに現れる検知時間以外に、それを確認する方法がない。
10万個の棚卸後に、総数の違和感からチェックする場合、数字記号羅列の10万行をログ時間か数桁のシリアル番号の重複から抽出する。シリアルが品番内に付加存在するということは、在庫ピース数と検知行数が同じになるということなのだ。
従って、重複抽出を自動で行う、一定時間内の重複を作業時にエラーとして視覚・聴覚に訴えかける、などの水際対策は現状のバーコード運用よりも更に重要性が増す。
そして、そんな仕組みも全部自前でカスタマイズする必要がある。(後日談:まもなく重複ログを排除する仕組が廉価で一般流通する予定とのことです)
悪いと批判しているのではない。
導入にあたっては、その認識とコストが必要なのだと指摘している。

しかもタグを検知する距離が近いと、同じ山を別のセンサーが読み取ってしまう。
「干渉」というやつである。それを防ぐシートや壁のようなものがあるらしいが、もはや放射能汚染や電磁波の防御を想像させる様相であり、バーコードの次世代利器として現場で標準化されるには、いくつかの改良や使用環境の工夫が必要と言わざるを得ない。
この場合の工夫とは「合理的な導入価格のシステム費用まで勘案して」の意。
潤沢な投資資金が用意できる大企業をメイン・ターゲットとしているなら、普及の時間軸やコスト面で、現状の広報には大きな瑕疵と錯誤がある。

そしてもう一つ重大な点が。
これも当日の説明から欠落していたが、商品マスターの変更が必須となるはず。
物流現場では商品マスターがすべてを支配している。

従って、システムやハードの導入以前にマスターの再整備か変更か追加加工が不可避になる。
トレースやロット管理、仕入原価別の同品番同商品の区分けなど、営業数字や経営管理にフィードバックしたい情報は、事前にマスター登録していなければならない。
しかもJAN13桁以降に結構な情報量が付加できるので、営業部門、仕入部門、財務部門、管理部門などから「こんな情報を加えて欲しい」となった場合に、誰が交通整理して取捨選択の行司役を務めるのかも大問題の火種となりそうだ。

13桁の現行JANに多様多彩な情報を有するシリアルナンバーが追加できる。
それ自体には素晴らしい可能性があるので、次々にプランが出せそうだ。
運用が叶うなら、期待でワクワクする仕様もいくつか浮かぶ。
が、その前にマスター登録という関所を通らなければならない。

難所となりそうな気配に満ちている。
というのが杞憂に終わるような技術革新や導入ツールの登場を待つのみだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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