毎度思うのだが、EC専業会社の物流業務はシンプルでルーティン化しやすい。
週頭や大型連休明けの出荷大波に対応することぐらいしか苦労は無い。
その他、製造工場が廉かろう悪かろうな場合、入荷時検品が煩雑で、入荷予定数と実計上数の乖離にムラがあって、不要な手間とそのコストが発生するぐらいのものではないか思う。
返品もあるが、入荷時の品質検品が適正に行われていれば、そのほとんどは受取拒否か不在による配達猶予期間の終了によるもので、未開梱物の再入庫には大した手間はかからない。
「入荷時検品不要」という割り切り方をする企業もあるが、「返品理由確認」→「ほぼ廃棄」とするケースが多いので、通常の返品処理にまつわる難所は少ない。入荷検品と返品処理にコストはかけないということなのだ。
EC物流(新語ではあるが、庫内実務的には何の特殊さも個性もない)はルーティンの典型であり、中小規模の物流会社にとっては最も取り組みやすく確実に利益が残る仕事だ。
配送や保管面積とその料金の細かいところにこだわりすぎる荷主もいるが、現状の説明を丁寧にしながら、真摯に対応すれば取引は続くはず。
巷の物流関連の宣伝でも「EC」という文字が入ったものが多い。
昨今の購買動向を考えれば、増え続けるEC参入者に向けての訴求が増えるのは当然だと思う。
物流専業会社なら無難に対応できるし、荷主としての経験が浅く、余計な先入観や警戒心が少ないので、物流会社の独自ルールを素直に受け入れてくれる。
「これが正解なのですよ」と物流作法やら取引ルールを既成事実的に説明できるし、実際素直に従ってくれれば、業務自体には大きなミスなど出ようがない。
そう実感が持てない物流会社は時流をきちんと理解し、至急対応したほうがよい。
EC専業者は基本的に全ての業務をデータで行っている。
他業態も同じ場合があるが、圧倒的に始点から終点までの距離や段取りが少なく単純だ。
つまり、物流についても同様なわけで、情報がデータ化できている段階で合理的で簡素な仕事の流れが組めると目論んで支障ない。
基本的には直線上に作業が並び、大きな分岐や別経路からの合流もない。
合理的で簡素な業務フロー維持に何よりも有利な要素は、受注から出荷完了までを一つのキーで繋げることができるからに他ならない。
実はそれこそが全ての物流業務の核心といえる。
「一つの共通キー」が設定できれば、業種業態など関係なく物流は廉くて速くてウマくなる。
経験上、二つでもなんとかなる。
そんなことはEC専業ではない事業会社でも物流会社でもわかっている。
製造業で問屋・商社帳合の販売店直送や卸・直販両建ての営業ルートがある場合など、長年かけて継ぎ足したり、別伝票で対応したり、別会社で請けてはいるが物流は共通であったり。
いくつもの情報処理パターンがあり、それは業務の冒頭から始まるために、最終の物流に至る時には、もはや共通化などという言葉からはほど遠い。
もちろんそれが不効率であることなど誰もが気付いている。しかし誰もそこに手を入れない。
なぜなのだろうか?
それは仕入と販売のそれぞれの事情がそれを許さないからだ。
この場合「事情」というのが実に厄介ものである。
要は、何の理由もなく、何の障害もなく、誰も反対していない。
なのに解決できない。
なぜなのか?
「事情」とは「あたりまえ」という名の常在する事実だからであり、それはすっかり日常業務の中に定着している。そんな毎日が大きなトラブルなく終わっているうちは、誰も明日を憂いたり、昨日を疑ったりはしない。
むしろそんな憂いや疑いを口にすることのほうが異端扱いされることもある。
ものすごく多い事例だし、多数の企業に内在している。
これこそが隠れたヒューマン・エラーの極みである。
担当者同士が習慣的に過去を継承し、疑いや違和感を感じないまま現在に至る。
明日以降も同じように業務をする。
現場はバタバタしたりミスも出るが、理解の範囲内であると顧客は認めてくれている。
事業会社の自社物流だけではなく、物流会社でもこのパターンは多い。
ミスやトラブルの元を、担当者や管理者が「許容範囲」「不可抗力」と収めてしまえば、解決できるはずがない。
今日が終われば明日がやってくる。それを疑うのは面倒だし、求められていない。
悪意なのか?
考え方がおかしい?
違う。
担当者も管理者も実直で勤勉であるはず。
だからこその人事だったのだ。
何がダメで何が許容なのか。
それを明確に示していないのは誰なのか?
顧客がらみのトラブルを現場で裁量させる現状は誰が認めているのか?
そこから手をつけるべきと申し上げる。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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