物流よもやま話 Blog

入荷検収は個口数の確認だけ

カテゴリ: 予測

読者諸氏の中で「うちは入荷全量を検品・検数している」という方はいかほどいらっしゃるのだろうか。統計的根拠ないドタ勘での物言いで恐縮だが、10年前に比して減っているのではないかと推察している。もちろん業種による偏りは多分にあるにしても、工業製品系の倉庫なら「個口数確認以外の検収ナシ」は標準化しつつあるような気がする。
かたやで依然として多いのはアパレル・雑貨関連の倉庫ではないかと思う。

「在庫管理上の第一関門は入荷である」
なんてことはアタリマエだと皆が思っている、、、とは言い切れぬらしい。
けっこうな比率で「アタリマエである」と認識されていなかったり、「そのとおりである」と口では言うものの、大昔から作業手順は野放図なままという現場は多い。

入荷手順の善し悪しをここで論じるつもりはない。
出荷元の性悪説・性善説は使い古されて久しいが、生産技術や業務品質管理の稚拙を「入数をごまかしている」といった粉飾行為と決めつけている発注者や荷受者は多い。
物流現場からの視点で言えば、「悪意をもって数を減らしている」や「わざと不良品を混ぜて数合わせしている」は極めて少ないのではないかと思う。
悪意でやっていることなら正せばよいのだが、悪意なく本気で精一杯やっているにもかかわらず、、、がほとんどだと思っている。すべてではないにしても、入荷数や内容物に不備不具合が多い事業者は、生産品質や業務管理に大きな問題を抱えていることが常だ。
納品不良はその因果による現象のひとつにすぎない。

なので入荷検収の負担軽減を図るなら、相手先の業務品質を見立てる「眼」を養うことが自衛策となる。品物自体が悪い会社は出荷精度も低いと判じてよい。
と書くのは容易いが、実際にはその「眼」を養うべきは荷主であったり他部署である。
なので説教がましく物流側が正論申すのははばかれるし、言い方次第では感情を害されてしまうかもしれないのでちょっとなぁ、、、と腰が引けてしまう。
品質管理や仕入担当のしかるべき人物に現場立ち合いしてもらい、着荷から開梱、そして検収の実際を見せて、不良実態を共有してもらうことが物流側の精一杯かもしれない。

廉かろう悪かろう的仕入のツケを入荷の水際で支払うような愚行は厳禁である、、、「と、よもやま話のオッサンがほざいております」のように拙稿を使ってくださいまし。

ちなみに「品質検品・重検品は請けません」という文言が多い物流会社の荷主一覧をみれば明らかだが、優良な営業倉庫には優良な荷主が入っている、、、はずである。
入荷物の不良常在という業務が存在しないからこその言葉なのだろう。
ついでに書くと「過去に検品で痛い目に遭ったことはない」なんていう物流会社や自社物流部門は無いに等しい。または「無いことになっている」のかもしれない。
なので物流会社では「品質検品は請負不可」となったのだと思うが、そうなると荷主に通告しなければならない。結果として出てゆく荷主もあれば、改善してより良くなる荷主もあり、新規契約先は「うちは不良品を工場から出さない」という事業者になる。
で、上記のとおり優良荷主が居並ぶ倉庫になるというわけだ、、、と思う。

物流会社についていえば、品質検品は荷主との関係性を危うくすること多しなので、どれほどに泣きつかれて頼まれても「お請けできません」と返すのが正解である。
荷主企業が依頼すべきは「物流会社に検品」ではなく「仕入先への製品品質の正常化」であるということを理解してもらうためにも、「なんとかしてはいけない」のだと思っている。

倉庫入荷時に仕事の多いアパレル業界でも、近年は入荷検収が激減している。
アパレル系ECの商品品質の悪さは物流業界では「アタリマエ」とされてきたが、もはやそれは昔バナシとなりつつある。入荷物の不良率は低減もしくは僅少化している。
ECの世界でも「良いものを廉く」でない事業者は市場からすぐに退場させられる――WEB上での口コミやレビューの拡散と情報取得はリアルタイム化されているので、ひと昔のような「徐々にうわさが拡がって」ではなくなっている。むしろ実店舗販売よりもえげつないほどに赤裸々な実態が瞬時にさらされるようだ。もちろん情報の客観性や偏向には留意の上で読まなければならないが、一定数の同種同質の書き込みには真実性を印象付ける作用があることは否めない。

そういえばEC荷主にまつわるこんなハナシもかつては多かった、、、
「倉庫で入荷検品して、不良品は除外しているはずではないのか」
という荷主指摘は真っ当であるが、良心ある作業を倉庫側で行い、不良となった品を外してしまうと「在庫計上できる数が2割しかなかった」「国内アパレル基準だと、良品はゼロ」のような結果となることが多い。
報告を受けた荷主は「検品基準が厳しすぎるので、もっと緩めてほしい…」と要望する。
その要望に負けて、ゆるい検品をやってみたら、購入者からのレビューが悲惨な状態になり、荷主から「不良品を出荷してよいとは言っていない」というクレームが、、、
この先は書く気にもなれないお粗末な顛末しかないので、ここでやめておく。

物流会社によっては「単価が良いので儲かる」入荷検収が簡素化されることを必ずしも歓迎しないかもしれないが、自社物流部門は間違いなく「そうあってほしい」と願うだろう。
仕入先とのやり取りで入荷作業が軽減できるのだから着荷即入荷処理して在庫計上→引当可能状態に、という販売前線への後押し効果は大きい。
さらには庫内作業時間の軽減=庫内人員の最少化に寄与、という効果が見込める。
「物流品質が高いほどコストは安くなる」の典型的なハナシである。

のようなハナシを聴かされた荷主経営層は仕入品質の向上を取引先に依頼する――競合他社よりも煩雑な庫内業務でコストがかさむのは、競争力の不利につながるからだ。
というのがワタクシの切なる願いだったが、やっと理解と実践が目立つようになってきた。
まだまだ道半ばではあるけれど。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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