物流よもやま話 Blog

高値より怖い廃業

カテゴリ: 実態

車を運転しながら「しかし多いなぁ」とつぶやくことがこの数年でとても増えた――コンビニエンスストアとガソリンスタンドの廃業跡のハナシである。
都心部やおもいっきり郊外部ではさほど目立たぬが、その中間に位置する場所ではやたら多いような気がする。
そこそこに商業施設や住宅があり、流入人口・車両通行量も一定水準といったエリアほど空き店舗の数は多いと感じているが、コンビニとガソリンスタンドのそれは圧倒的に目立つ。
「コンビニは増えすぎていた」という説明は理解しているつもりだが、ガソリンスタンドについては特有の事情が加わって、撤退や廃業増加となっているらしい。

そもそもが薄利多売で過当競争の極みだったところに「耐用年数の限界を迎える地下埋設の貯蔵タンク交換に莫大な費用がかかる」時期を一斉に迎えたために、力尽きて廃業、、、というのが相当数あるようだ。元売りに資金繰り依存しているスタンドは多いと聞くが、さすがに億単位に及ぶタンク交換費用までは面倒みてもらえぬらしい。普段からイロイロ親身に考えて相談に乗ってくれる銀行ですら、帳簿見ながら「ちょっと難しいですなぁ」となるのだとか。
で、元売り直営の大型セルフスタンド以外はやむなく廃業、、、というのが事の顛末らしい。

ちまたではこのところのガソリン価格高騰にまつわるニュースがあふれている。そのほとんどが事業圧迫・家計負担増大の厳しい実態についてのハナシである。
かたやで値上げしている側のガソリンスタンドの苦境について言及する記事は少ない。
企業や個人そしてメディアの多くは、あくまで需要側の負担増についての経済的切迫や物価への転嫁の影響については発するものの、「供給側もシンドイのだ」というところまでは考えが及んでいないような気がする。

物流業界は燃料価格高騰の第一波が見舞う位置にある。今日の燃料費値上げが今日の減益に即反映される。二日仕事なら昨日と今日では利益額が違うということも珍しくない。
事業減益は社員の生活設計にマイナス要因となって影を差す。ひょっとしたら個人の収入も減るかもしれぬのに、日常生活での水道光熱燃料代総値上の追討ちが身を切る。
という類のハナシが毎日毎時、国会や財界で議題となり、補助や税制の改革案があれこれ論じられているわけだ。それについては一生活者として「大いに論じ、早く手を打ってくれぃ」と願うばかりであるし、電気代の月明細やロードサイドに立つガソリンスタンドの価格表示を目にするたび「げげげぇ」と口の端がゆがむのはつらい。

が、ふと思うのは、
「高い廉いに一喜一憂しているうちはまだマシなのではないのか?このままガソリンスタンドの廃業が止まらず、そのうち近隣からガソリンスタンドがなくなってしまったら、、、」
という懸念である。

それは過疎地の現状たる「近隣にスーパーマーケットがなくなってしまい、巡回販売が来なければ、車で一時間弱走って買い物をしなければならない」という状態に酷似しつつあるのではないかという大懸念となって背筋が冷たい。
多少高くても近所にガソリンスタンドがあることは幸せ、、、なんていう状況になりつつある地域はいったいどれぐらいあるのだろうか?

そんな懸念は杞憂に終わればよいと切に願うが、どうもそうはいかないように感じている。赤字続きでは倒産や廃業するし、後継者がいなければやはり閉めるほかない。
寒暑別なく道路端に立ち続け、洗車や消耗品交換や修理などを、むせる暑気の中汗みずくのままだったり、寒さに震え指先を凍らせながらであったり。なのに赤字すれすれの毎月。
そんな仕事を継ぎたい子息は少ないだろうし、継がせたい親も同様だろう。

「地域のために」という建前が成り立つのは、見合う収入があるからこそだ。
恒産無ければ恒心無しとなるのは当然の道理であるし、こうなってしまったのはスタンド経営者だけの因果ではない。世界第二位のガソリン廉価販売国としての因果、とするほうがわかりいいと思えてならないが、読者諸氏のお考えはいかがだろうか。

ガソリンの二重課税問題やトリガー条項発動の是非については徹底的に議論・改善すべきと思っている。しかしながら、それ以前に「ガソリンスタンドが永久不滅の地域インフラではなくなりつつあるとしたら、そのモンダイへの対処はいつから誰が着手するのだろう」という疑念とも懸念ともつかぬ言葉がずっと脳裏で点滅している。
まさか「その答えはEV化です」なんていうスットコドッコイを言い出す能天気な人はもはやいないと思うが、さりとて化石燃料枯渇以前にその供給場所の激減が喫緊の課題化していることを騒ぎ立てるメディアがあるのだろうか。あるにしてもあまりに目立たぬし、世論化してないと思えてしかたない。

購買難民の増加を予見していた学者やジャーナリストは多くいたにもかかわらず、大手メディアが取り上げ始めたのは「スーパーマーケットが撤退して、今では週に一度の巡回販売車だけが唯一の食料品や日用品の入手手段となっているこの地域」という状況に至ってからだ。
「いずれそうなる」とわかっていたはずの行政も、「やっぱりこうなった」と明らかに後手に回っている感は否めない。

スーパーマーケット難民の次はガソリンスタンド難民か?
と心配になるが、ひょっとしたら単にワタクシが無知なだけで、
「とっくに手を打っている行政や地方自治体や元売りや大手販売者があるのだぁ~、、、」
であれば安堵する。

「高くてもいいから近所にガソリンスタンドを一か所残そう」
というのが杞憂に終わればよいと願う。
手前味噌だが、地方自治体は域内物流内製化と併せて域内燃料供給内製化も自治体事業として検討してみればいかがか。JAが似たようなスキームで事業展開しているが、そこに自治体も乗っかる形にすればさらに安定的かつ公共性も増しそうである。

皆で考え行動すれば、何とかなるかもしれぬ。
こういう時は楽観論がよろしいと思っている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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