物流よもやま話 Blog

このままでは転出超過が続きます

カテゴリ: 経営

近年の転職市場はとても活況らしく、それはTVやWEB広告の露出からも明らかだ。
拙著でも懸命に「わが業界にはチャンス多し」と訴え続けてきたのはご存じとおり。業界各社の努力もあって、以前に増して他業界からの転職組の流入は明らかに増加している。

しかしながらその後の塩梅がよろしくない。つまり長く続かず辞めてしまうこと多しなのだ。
労使双方に言い分はあれど、転職組の再離職率が高いのは現実。かくして業界の人材確保は総論として厳しさを増すばかりとなっている。

もし貴方が「そんな実感はないけれど」と首を傾げているのなら、とても優良な部門経営がなされていると評価できる。ただしここでの「厳しさを増す」という中身は、30代以下の正社員を対象として書いているので、その旨ご承知おきのほどを。

いっぽうで、私の知る限りパート・アルバイトの定着率は落ち着いているようだ。
最低賃金の確実な年次上昇と扶養控除にまつわる政策改変の過渡期にあって、「とりあえず様子をみよう」という心理が働いている――というのが雇用動向の分析となっている。
(厚生労働省の雇用動向調査の概要と物流業界のそれとは毎度時差や数値ズレが生じるので、悪しからず割り引いてお読みいただきたい)

企業側からは言い出しにくいハナシゆえ拙稿で斟酌なしに書くが、物流会社や事業会社の物流部門では社員教育や就業規則の順守徹底に“やむにやまれぬゆるみ”が生じている。
それはパート・アルバイト職についても同様で、

「キツク言うと辞めてしまう」
「規則が多いと続かなくなってしまう」
「勤怠管理は完全な業務従量型ではなく、従業員都合が優先されるのが現状」
「有給や賞与相当手当についても増加の一途であり、その算定に考課要素を織り込みにくい」
「かといって正社員化を望まぬ非正規雇用従業員が圧倒的多数を占める点も悩ましい」

のような実情は、特殊でも稀でもなく、どこの物流現場でも同様だとみなしてよいだろう。

非正規従業員以上に深刻な管理不全に陥っているのは中堅・若手年次の正社員たちである。パート従業員たちの強気な態度や要求に辟易しつつ「オバチャンやオッチャンたちはあーだこーだとうるさい割に働かない」と愚痴をこぼしている。しかしながら滑稽なのは、その上席たる管理者も同じような不満を中堅以下の部下たちに抱いてやまぬ喜劇的毎日の様子である。
さらに経営層に至っては、、、もうやめておくほうがよさそうだ。

「滑稽な出来事」は事業者によって多少のムラや事態発生のタイムラグがあるわけだが、物流関連の全業態について言えるのは「他人事でも対岸の火事でもない」ということだ。
「うちは大丈夫」と高を括っている順に当事者となり、厄介な事態を招く――なんていうハナシは今や蛇足でしかないよ、と苦笑している貴方の現場は大丈夫ですか?

厄介な事態の最後に巡ってくるのは「優秀な順に去ってゆく」という惨状である。予言や予想やおせっかいで書いているのではなく、直近の実話のいくつかをもとに書いている。直接見聞きしたものと他者から知らされてたものと合わせると、個別事案や特殊事例と切り捨てるには多すぎる。もはや「まだまだ拡がる風潮」として認識するべきだと感じている。
詳らかな具体をご要望なら、直接お問い合わせいただければお答えする。固有名詞や守秘情報は伏せての事例紹介になる点はご賢察のとおりであるが本質の検証には足りるはずだ。

生業ゆえの要望も多分に含まれたハナシではあるが、理想的には20代後半あたりから遅くても40代前半までに、物流管理者としての心得の定石を身に着けてほしいと切に願う。
「自社内での研修やOJTのみでよいのか?」
を今一度再考していただきたい。外部者による観察と分析と検証の結果が自社のそれと一致している事例は皆無だと思うが、「うちはこれでいいのだ」と断じる前に、「ほんとうにこれでよいのか?」を真摯謙虚に自問する時間を持っていただきたい。

人材育成と雇用安定は部門経営の基本。
売手市場であるからと言って、あまくゆるい体制管理はなんの解決策にもつながらない。
辛辣に過ぎるかもしれないが、管理者の怠慢と能力不足が「働きやすさ=従業員への忖度」という見当違いも甚だしい「安直で汗をかく気がない愚」を生み出している。

指導・管理能力の低さをコンプライアンスの徹底にすり替えている実態はとても多い。
「厳しく適正な教育」と「人格否定や高圧的指導」は別物であることなどあたりまえのハナシであるし、「それをどうやるのかが難しい。だれか教えてほしい」と嘆いている時点で、まずは役職を返上して平社員からやり直すべきと判じられて当然である。

懲りずに何度でも書くが、厳しく指導し規則厳守を徹底しても人は辞めない。
退職理由の圧倒的多数は「人間関係」「組織内での是々非々のわかりにくさ」「規律不足による個人裁量蔓延の野放図さに辟易」がはるか昔から上位を占めている。
つまり「このままここにいても仕方ない」という見切りが転職動機の第一だ。
上述の「優秀な順に去ってゆく」のは、できる人材ほど判断と行動がはやいからに他ならぬ。

わが業界の人材転出超過に歯止めをかけるのは、労務順法と適正な規律徹底。
つまりどの業界でもあたりまえにやっていることを「うちの会社でもそれはあたりまえ」と言えるようにし、第三者が検分しても「あたりまえのことはできている」と評価できる体制・体質に転じさせるための行動が最低条件となる。

のような講釈など無用なのははじめから承知している。
なぜなら人材確保の答えはもうすでに貴社の中にあるはず、と思っているからだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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