自宅の仕事部屋の窓下には階下に出張ったサンルームの屋根が見える。
先日の大雨の日、何気なく外を眺めていると、その雨樋に水が溜まって流れていないことに気が付いた。一階に降りて、サンルームの竪樋の排水口を見てみたが、全然水が出ていないではないか。「これは大変じゃぁ~」と慌てて工事会社に連絡を入れたのだった。
日曜日の夕方にもかかわらず即座に返信があった。
その要旨は「急な豪雨の場合、降りはじめに横樋に集約した雨が一気に竪樋口に集中する。
ごくごく稀ながらも、いくつかの偶然が重なって瞬間的に水塊化して表面張力が発生し、竪樋上部開口に蓋のように横臥することがある。風や気温変化などによって物理的な均衡が崩れたら流れ出すことがほとんどなので、少し様子見してほしい」ということだった。
「えっ?ヒョウメンチョウリョクって、、、コップからこぼれそうでこぼれないアレか?」といぶかしんだが、家人の補足説明で何とか理解できたのだった。
翌朝窓を開けてしげしげと観察してみたが、昨日雨樋に満タンに溜まっていた雨水は、きれいさっぱりなくなっていた。夜間に竪樋を経て排水されたということなのだろう。
(後日談:原因はちょっとした詰りで、表面張力が原因ではなかった)
という顛末の後、似たようなことが現場でもあるなと思い至った。ただし「ごくごく稀に」ではなく、けっこうな頻度で起こる。考えられる原因も物理的であったりなかったりだ。
竪樋の空気塊の圧が上部に横臥している雨水の圧と均衡してしまうのが表面張力。
――のような解釈で正しいのか否かは定かでないが、なんとなく仕事の滞りや俗にいうボトルネックが発生する際の視えない主因と通じるものがあるような気がする。
手順書に不備はないのに、なぜかいくつかの特定箇所で流れが滞ったり、試算より遅くなったりする。いわば自然発生的な停滞や渋滞としか説明しようがない事例はどこの現場でも経験済みか現在も発生中、かと思う。
管理者諸氏はそのたびにあれこれと工夫して、流れを蘇生させよとするわけだが、首尾よく奏功となることもあれば、そうならぬことも。
雨樋に溜まった水なら、竪樋の開口部を棒状のものでかき混ぜてやれば一気に流れ出す。
つまり強制的に詰まりを除去したり、張力均衡を破る力を加えてやればよいのだが、物流現場に置き換えるとしたら「棒状のものでかき混ぜる」とは何を指すのだろうか。
1.作業手順を変える
2.レイアウトを変える
3.人を変える
などが定番だと思うが、一般的には1と2のいずれかもしくは両方を講じれば、滞りや不具合は好転するはず――なのだが、スッキリしなかったり、イマイチ改善しなかったり、かえって遅くなったり、、、は珍しいハナシではない。
いったいなぜなのだろうか。
物流屋を長くやっていれば、こんなことは何度となく見舞うので、すでに答を思い浮かべている読者諸氏も多いかと察する次第だ。
実は3の「人を変える」が即効性に優れ、手順やレイアウトの改変なども自ずと付いてくる――は不肖ワタクシも数多く経験してきたし、場数を踏んできた物流屋なら定石とするだろう。
つまり現場の数多い問題は人由来であることがほとんどを占める。具体的な諍いや衝突や不仲を見聞きすることは稀で、もしあるとしても小競り合いや小言や小声の嫌味程度に違いない。
機能不全や障害の第一因は負の感情が相対することで生じる空気感が塊のようになって現場に横たわっているから、というのはワタクシ流の表現。言い表し方は十人十色だと思う。
「横樋の水塊が竪樋の気塊と表面張力によって均衡し流れが止まる」
という現象は水塊と気塊を個々の感情や組織間の価値観や優先順位の食い違いに置き換えてやれば、物流現場に限らず組織内のあちらこちらで発生しているように思えてならない。
理屈や仕組による合理性や正論がウヤムヤにされつつ脇に押しやられてゆくことは間々あることだが、押しやる力や圧が生まれた場所をたどれば、事態は矯正されるだろう。
雨樋の雨水なら「しばらく放っておけば、自然に流れだす」なのだが、物流現場やその他組織でも同じように「放っておく」ことが最善なのか否かの答えはまだ出せていない。
ちなみにワタクシの経験では、
「放っておいたら勝手に流れ出した」が2割弱。
「詰りの該当部をかき混ぜたら一気に流れ出したが、出血を伴うこともあった」が7割強。
歩率の残りは「どうやっても、どう言い聞かせてもどうにもならんかった」であります。
放っておいたら勝手に流れ出したが、しばらくしたらまた詰まってきた。
というリバウンド現象も少なからずあることも付記しておきます。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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