掲題の各語に続く言葉は、「――やっても〝至らぬ〟という思いがいつも居残る」である。
主語は「〇〇研修」だったり、「〇〇養成」や「〇〇技検」と多少の違いはあれど、関与先の誰かに何かを教えたり習得してもらうという点では同じだと思っている。
話した時間ややり取りの回数を数えたことはないが、長い時間の蓄積をほぐしてつぶさに見返せば、その中には忘れられない出来事や人物が少なからず存在している。
特に初対面から数回目までの会話やヒアリングの際に感じとった欠片のような本音。時として遠回しだったり直截だったりを織り交ぜながら相手に問うた核心にある事由。
私の生業の本質は物流技術販売ではなく、物流組織を活性化するための手順と方策を進言することが主たる中身――と改めて自己確認している今なのだ。
自社物流でよく聞かされるハナシは、
「物流部門は他部署で結果の出なかった人員の受け皿となっている」
「倉庫業務ぐらいしかやらせる仕事がない社員」
「真面目にコツコツやればよい物流業務なら、能力的な不利もあまり問われないはず」
などである。
もちろん全部が全部というわけではないが、裃(かみしも)を外して本音を吐いてもらえば、まぁまぁの割合で「わが社も似たような感じ」となるような気がする。なので私の仕事の始まりは、マイナス的要素を内に抱えた状態でキックオフの笛が鳴ること多しなのだ。
手前味噌で恐縮だが、上記のような評価のまま物流部門に異動してきた人材の多くに「適所」があり、従前までは見出されていなかっただけ、という適材発見の実績は多数ある。
「お手並み拝見」の現場職ご一同に囲まれたアウェイ感にも慣れているつもりだ。
その反応が当然で健全なのだと思っているし、いきなり上から押し付けられた見ず知らずの侵入者への警戒や拒絶の反応はよく理解できる。むしろ上手な作り笑いで愛想よい頷きや返事ばかりで一向に行動しない――いわゆる面従腹背という状態よりははるかにありがたい。
キックオフ後は、相手や周囲の顔色やご機嫌などまったくうかがうことなく、私の手順は粛々と進むのが常だ。しばらく経って、「フーン、、、」が「ん?、、、なに?」に変わり、「えっ!、、そうなのか」ぐらいまでくれば、マイナスからプラスに転じるゼロ地点あたりにさしかかっているはずだし、もはや体も顔も意識も前を向いている。
そのあたりの時間感覚や距離感は関与先によって千差万別なのだが、こちらが変化を感じている時には、相手も同じように気付きや変調を実感しているものだ。
続く展開は推して知れるはずなので、読者諸氏のご賢察にお任せする。
ちなみに関与先でどんなハナシをしているのか?という質問を外部会合やセミナー出演時などによく受ける。ごくごく簡略的な回答ではあるが、「各社共通の基本事項としては実務関連の技術的助言や方策、業務データの切り方と分析方法など」「モノの見方や現象と原因の識別と因果などを概論と具体例を織り交ぜて解説」といったところだ。
たとえば先月行ったとある企業の部門内講習会でのハナシは以下の内容だった。
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運送業にしても倉庫業にしても、体質改善は一朝一夕になせるものではない。
たとえば2024年問題。
相変わらず本質的な議論が置き去りにされたままで、現象や表面的な欠損ばかりが話題とされている。なのでたいした改変もないままに来年を迎えることになるだろう。
もう口にタコができてしまいそうだが、物流危機とかいう「モノが運べなくなる」という状況は到来しない。なぜなら〝足らなくなる〟という煽り文句の根拠となっているのは「法令違反してでも安く走ってくれる運送屋」であって、国内にある運送事業者のドライバーと車両すべてを試算対象に据えて、来年度の物流量で割り出した数値ではないからだ。
つまり今も来月も来年も稼働率の低い、もしくは遊んでいる車とドライバー(離職したが条件改善なら復帰可能者を含む)はそこそこあるというのが実態。ただしそれらの車と人を動かすためには適正運賃・適正労務という条件を順守せねばならない――単純に「すればいいではないか」となりそうなものだが、それは運送業界の苦境が世論としてしっかりと浸透してからの段取りである。昨年後半あたりから始まった物流危機号令ブームは、まさに値上げ下地の醸成期間と言いかえてもよい。
大手を筆頭に営業的には「機が熟す」のを待っている運送事業者は多いと思えるし、現実に来月の盆明けあたりから大手の強烈な値上げ告知が始まる。蛇足だが、大手事業者の物言いは「一律値上げではなく過剰安値路線の適正化です」というのが専らとなりそうだ。年末にかけて中堅以下がそれに続き、小規模零細事業者に至っては、年明けあたりに恐る恐る値上げを申し出る、といったところか。不慣れな値上げ交渉など端から諦め、中堅どころの傘下に入る事業者も多いはずだ。
この手のハナシに関する私見については過去掲載や外部媒体への寄稿文をご参照願う。
~中略~
単年や短期間の現象ばかりにとらわれてはならない。運賃をはじめとする物流コスト根拠の基調実態を過不足なく測定することを怠らぬようにしていただきたい。
国内消費の基調は縮小・下降であるので、総物流量がそれに準じるのは当然の理だ。物流は消費の子であり、消費の母たる人口動態は一層の少子高齢化、つまり人口減少の傾向を加速させること必至である。産業のEC化は個配形態の運送業務を拡大させてきたが、その伸びも鈍化から市場再整備という踊り場状態となっている。続く階段の向きが上か下かについては不明だ。
個配市場の先読みとしては、過去に解説した「受動的受領から能動的受領へのシフト※」を思い返していただければ、一定確度の予測が成り立つはずだ。現状の寡占状態が招く市場環境では、過度な競争による価格競争は絶対回避となること明らかである。なので個配運賃は現状水準を維持もしくは微増と考えるのが妥当ではないかと思う。
※下記寄稿ご参照
「人が足らない」という実情は、運送業界に限ったハナシではない。
低賃金・長時間労働・劣悪労務管理・法令順守意識の欠如などを改善せずに、人材不足を憂いたり嘆くのは本末転倒というものだ。低賃金とサービス残業が低運賃を支えているのだから、それを要望して強いる荷主が悪い、、、という論調には大いに疑問がある。確かに運賃値上げに抵抗する荷主は存在するが、それ以前に頼まれも強いられもしないのに自ら安値受注に甘んじている運送業者の比率のほうがはるかに高いのではないかというのが長年の持論である。
つまり交渉をはじめとする営業努力を端からあきらめ、仕事の獲り方は「無理難題大歓迎、しかもどこよりも安くします」を専らとしている事業者が大勢を占めているのだとしたら、荷主攻撃ばかりでは的外れも甚だしいと言えよう。
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基礎知識を習得するための教科書講習は大切だが、物流専門職や機能組織としての実務レベルで必要不可欠なモノはWEB記事やメディア報道に依存してはならない――情報収集や状況判断や戦略決定と行動指針に際しての自社ルートや自社ルールは確立しておくべきだ。
その基準は明快である。
「自社にとって必要で有効な情報」
「自社にとって不要で無効な情報」
この判別を迷いなく行える組織体制が、強い物流機能構築の基本となる。
なので部門内教育や判断基準策定時の拠り所として必添して欲しい。
読者諸氏の実務に際し、多少でも参考になれば幸いである。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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