物流よもやま話 Blog

場数と相性と同じ景色

カテゴリ: 信条

見積書を作るのが苦手だ。
が、人の作った見積書にケチをつけるのは大好きだしタイヘン得意だ。
好きこそ物の上手なれ、なのであります。

営業倉庫在籍時代には、商談開始時に頭に浮かんだ総額の概算が最終見積と5%以上乖離することはまずなかった。
物量と入出荷数、梱包形態を理解できればすぐに出る。
雑極まりないが、一回目のヒアリング時に口頭で言ってしまいそうになることも少なからず。
もったいつけることも見積作法の一つ、と懸命に我慢していた。
部下に恵まれていたので、実に丁寧でよくできた見積書を作ってくれる。
判子を押すぐらいしかやることは無かった。

業種・業態の異なる企業になぜすぐに見積が浮かぶのか?
それは仕事の中身が大体見通せるからに他ならない。
ホンネを言えば自慢でもなんでもない。
「独特の閃き」「手品みたい」とよく感心されるが、実はまったく違う。

場数である。

頭の中の顧客抽斗を選んで、相応に中身を変えただけなのだ。
いちいち分析して考えてもう一度確認して、という段取りを踏む他者とはスピードという点では比較にならない。ノウハウや秘訣だというほどの値打ちはないので、身内には種明かしよろしく速算の方法や根拠を教えていたが、一定以上の経験がないと安直さを生み出すだけの毒になってしまう。その点には注意して取り扱っていたはずだ。
見積前の商談可否判断はもっと速い。
数年に一度は見立違いがあるが、概ね判断ミスは無かった。
これについては残念ながら、ノウハウ化して汎用技術化するに至らなかった。

見積決定率が異常に高いと社内外から褒められたり疑われたりしたが、個人的にはピンときていなかった。
決まりそうだなと感じる相手にしか見積提出→クロージングしないのだから、歩留りが高いのは当り前である。
会話の中身も普通の言葉で平凡な内容。専門用語もほとんど遣わない。
そもそも専門用語をあまり知らないのだ。

法人にも人格があり、それゆえに相性は大切であると信じている。
自身の経験で言えば、トップの経営理念や信念や大切にしているモノや一定以上の歴史が作り上げた社風が、幾つかの点で一致しないと相互の良し悪し以前に組合せとして無理がある。
商談の始まりに最も考えなければならないのはその一点のみ。
相性がよければ、議論や駆引きや問題認識、スピード感など、多少の調整は必要でも結局は上手く収まるはずだ。

対面ではなく同じ景色を見ながら並んで話せるような相手を探すことが仕事だと思ってきたし、今も今からもそう信じる。
互いの眼に映るものを同じように感じられることは、何にも代え難い悦び。
こんなことばっかり本気で考えているから、たくさん契約をとってたくさん得ることができないのだろう。

30年を超える仕事人生。
それなりの苦労はしてきたと思う。
しかし不幸だったことは一度もない。

ゆるぎない私の誇りなのであります。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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