物流よもやま話 Blog

物流機能を内製化するには

カテゴリ: 経営

自社物流業務の改善と品質維持、社内研修や教育システム構築、事業会社の物流コスト評価や機能判定などが私の生業――は旧知の読者諸氏には周知のことかと思う。
そして自論たる「強い物流機能の設計・運用」の趣旨とは、必ずしも完全内製化を指すものではなく、むしろ外部委託を活用してハイブリッド運用するというのが本意なのだ。
過去稿と一部重複すること承知で再度書いておきたい。

「自社の物流機能を内製化する」
とは、自社の物流機能を自ら設計し、その作業手順を作成し、作業総量と労働コストを試算し、さらに付加コストを概算して、自社物流業務の概要を自作することから始まる。
つまり自社倉庫の有無、作業者の所属先、内部コストと外部委託コストの比率などは、「物流内製化の判定評価」には全く干渉しないとお考えいただいて支障ない。

それは「ものづくり」に際して、自社工場の有無がメーカーとしての評価に影響しないことと同じである。この類のハナシは過去に何度も繰り返してきたとおりだ。
むしろ自社の意匠や素材選定や規格や原価設計と売価設定などが自前でまかなえぬのなら、たとえ立派な自社工場があっても、そこは単なる製造場に過ぎない。
誤解なきよう書いておくが、ここで問うているのは「自社製品」を謳うにあたっての要件であり、製造現場の品質管理や生産性への強いこだわりを持ったOEMやPBの請負を主業務とする事業会社を見下しているのでも否定的に評価しているのでもない。
製造現場が自前か否かは製造者としての評価に干渉しないのだという意の記述である。
自社物流という言葉の中身も同様なのだとご理解いただきたい。

さらに加えると、昨今の国内雇用事情からして、ワークシェアリングの拡がりと徹底は必達すべき国策というのが持論であり、世論としても少なくないはずだ。
枕詞のように労働力不足や省人化で始めるは安直で軽薄。労働志向の偏りが生まれる場所を探り当てて、改善措置を施せば、結構な労働力が確保できるに違いない。
毎度書いたり話したりしているとおり、増加の一途たる高齢者労働力を活用する方策は数多ある。その肝となるのは許容時間の拡大であり、生産性の基準見直しは必須。
市場の売手買手と各々に属する労使の皆が少しづつ我慢すれば事は成る。

というわけなので、一定規模以上の物流業務を有する事業者は、自社物流業務の基本設計と総労働量と総コストの試算の後、内部と外部への業務割り振りを弾力的に考察してほしい。
自社倉庫運営者なら、外部委託先への業務割り振りやコスト配分の適正化とその評価を、できれば年次ごとに検証しつつ改善意識を保ってほしい。
外部委託であっても、今一度上記のような手順で内製化を仮想して「つもり設計と試算」を行い、丸投げ状態の現状の実情を吟味してみるべきだと強くお勧めする。「そういえば契約前に見積書を徹底検証して以来、まったく再試算していない」という事業者は多い。外部者に憚ることも頼ることもなく、内部ですぐできる。
自社の物流機能の測定とコスト評価の素材が揃えられることは、経営層にとっても興味深く重要事項のひとつとして捉えるべきではないだろうか。

手前味噌となり恐縮だが、実はこの「自社の物流業務の実像を測定する」に際しての需要がもっとも強く、かつ客観的な評価をどうやって得るべきかの模索や検索が多い。
過去に私が問いかけられた項目でも「測定方法と評価」が最多である。
さらに多いのは「ちょっと安易に考えていた」という戸惑いや混乱である。つまり物流コストの計算や評価方法などで躓いたり立ち止まることなどないと高をくくっていたのだろう。
それはヒアリングが始まればすぐに露見することなのだが、ほとんどの事業者で似たような状況になるのも事実のひとつなのだと言い添えておく。
本稿掲題の言葉は、種々の説明のあとに付け加えてきた言葉であり、言い聞かされた担当者殿や管理者殿や経営者殿は数多い。
そして目から鱗が落ちて、思考や視点の切り替えが済んでしまえば、矢継ぎ早に鋭い質問を浴びせる方々が多かったことも付け加えておく。

なんでもかんでも外注は愚。
なんでもかんでも内製は鈍。

なんだか訓戒標語のような物言いとなってしまったが、実感からの答である。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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