良い現場と悪い現場の見分け方にはいくつかある。
防災面でも秀逸堅牢な建屋と各種認証システムによるセキュリティ。
センサーによるLED照明の点消や空調コントロール。
太陽光発電や災害停電時の自家発電設備。
被災時にも稼働する通信機能。
デジタル管理されたマテハン。
お金で買えるものを書き出したらたくさんある。
が、現場の良し悪しと設備のそれは必ずしも一致しない。
建屋を含む設備の充実を否定しているのではない。
働く者に便利で安全、快適な設えの倉庫が増えることは好ましいと思う。
倉庫内の従業員にとって、空調や照明、休憩所や食堂の充実は何よりの好遇。そんな環境を用意できていなかった雇用側の一人として、現場の人間には申し訳ないと内心で懺悔していた過去を思い出す。
しかし、労働環境とは別に現場にはゼロ環境というのが重要で、それがあるかないかで仕事の仕上がりが大きく違ってくる。
庫内環境にとって最も重要で維持しなければならない基幹ルールは、「ゼロから始めてゼロで終わる」ということ。
面一が見通せる通路。棚上や壁際の「とりあえず逃がして」のない、もしくは不可抗力であり期限日時の入った一時的なイレギュラー状態。
始業時にそこをチェックし、終業時にも同じ巡回作業。
実務時間中にも異常はないかと見回り。
では、管理者は何を寄る辺として、現場を歩くのだろうか?
それは「違和感の有無」を確認するため。
良い現場では管理者が違和感を抱く場面がほとんどない。つまりは管理者の現場環境観や業務理解に収まらなかったり、足らなかったりする場面がないからだ。
ロジ・ターミナル風に表現するなら「イメージスクリーンと違う状況がない」ということ。
悪い現場では巧妙なすり替えや虚偽の報告により、できない理由の説明が繰り返され続ける。
視覚的にひっかかることもあるし、ヒアリングすればなおさら明らかになる。
管理者のこの気付きや戸惑いや猜疑の元は何なのか?
それは察知する違和感に他ならない。
ゼロから始めた仕事がゼロに戻らないかもという直感が働くなら、その現場は何も問題ない。
嫌な予感や変な感じ、は理論的で科学的ではないかもしれないが、現場管理者には場数を経てしか習得できない仕事道具のひとつなのだ。
絶え間ないルーティンの継続と維持でしか違和感という直感的な気づきは得られない。それは一定上の場数と経験値が生み出す技術に他ならない。
業務フローの順守を徹底するためのOJTが行き届いた現場では、管理者の違和感こそが変調の兆しや錯誤の入口を察知するセンサーになる。
「物流の責任者として、君はおかしいと思わなかったのか?」
と問う経営層・管理層は多い。
では上記の質問者に問う。
「問題が起こるたびに諮問し、その内容の検証と判断と修正改善策を提出させることをいつまで繰り返すのですか?」と。
報告聴取か書面目通しの後、善後策の承認や指示しかしていない、と自省すれば随分と変わる。経営が現場管理者同様の違和感をやり過ごさなければ、根本的な問題解決は難しくない。
そして物流機能の大きな変革は、経営マターでしか成し遂げられないことも付け加えておく。
なぜなら物流現場の多種多様な現象の原因は、他部門で生まれ育まれることが多いからだ。
部門を跨いで横串を通す役は経営層が最も好適であるし、結果もすぐに出るだろう。
予測ではなく実例だと理解していただきたい。
やってみる価値はあると思います。
取締役ご一同様。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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