この10年足らずで営業行動の一連が大きく変質してしまったと感じている。
とはいえモノを売るにしてもサービスを勧めるにしても、中身と値段の説明は付いてまとうし、その合理性や表現の巧拙が成果に直結するのは当然のことだ。
変わったと感じるのは接客や販促における作法についてである。
世に出た最初が営業職で、その後の人生も顧客獲得の前線に立つことが専らだった私。
見積書作成や対面接客の際に営業マン各人が添える「言葉」こそが個性と能力のきらめきの極みと教えられてきたし、経年なりの技術や作法を収得してきたつもりだ。
しかし、10年余り前から、それまで自分自身が信じ疑わなかった絶対価値のいくつかにぐらつきが生まれ始めた。
俗にいう成功体験的な方法論や営業マンの真理とされてきたモノに疑念が生じるようになった。その最たるものが見積作法と対面営業についての諸事である。
「一部の専門店を除いて、もはや両方要らぬのではないか?今も対面営業や見積作法にこだわる会社や人物は時流から外れているのではないのか、、、」
というのが胸中の偽らざる声で、事実自分自身の生活に対面応接や複雑で専門性の高い見積書とその説明を必要とする場面は皆無に近い。万一そのような事情が発生したとするなら、当初は極力簡易で第三者を交えず自己完結できる方法を模索するに違いない。
個人的な評論としては専門店やサービス施設での対面接客は必要だと思うし、何でもかんでもシステムやWEBを下の句にもってくることには賛成できない。
あくまで時流の考察としてのハナシである。
上述を受けて続けるなら、物流業界は流れの外にいる典型だろう。
まずは見積がわかりにくい。
業界用語の一般表現への置き換えや補完説明が不足しているし、運送業・倉庫業ともに用語と業務項目の標準化と準拠の動きが皆無に近い。
したがって会社の数だけ見積書の面が存在することになる。
「最安見積を探す旅は労多くして益少ないのですよ」
と荷主企業向けに小言を吐く私だが、かたやで業界に向けても業務項目の標準化と仕様作成、標準単価の規定と準拠行動の促進を訴え続けてきた。
業界団体のたゆまぬ努力の甲斐あって、昨年やっとトラックの標準運賃が規定されたが、コロナ禍による車両需要の落ち込みもあいまって滑り出しからつまずくことになったのは残念だ。
蛇足だが労務順法と過当競争回避は業界をあげて継続監視してもらいたいと願う。
港湾エリアには荷役や保管料の基本タリフが存在し、運送業界には前述のとおり標準運賃が規定された。しかしながら当事者たる事業者がダンピングしてしまっていることも事実だ。
建前では適正価格の順守と頒布を謳いながらも、現実に仕事が減れば「安くするのでいかがでしょうか」と自ら値崩しする側に回る。
下請法まで持ちだして業務単価の適正化を荷主に訴える前に、まずは業界の足並みをそろえ、襟を正して事の決定と実行に向き合わねばならぬようだ。
倉庫業界については議論すら顕在化しておらず、見積項目の共通化や標準単価の規定などは遠い夢物語でしかない。
現状での危惧は、荷主企業との温度差――過去から長くそうであったように、まともに相手するに値しない下請業者としての地位のまま先細るのではないかという点だ。
相互理解に結び付く会話、事業価値の共感、リスク負担を踏まえた協働が出来ないのなら、その業務は機械やロボットでまかなった方が合理的と判断する荷主が増えるに違いない。
わかりにくいものは支持されない、、、つまり単純平易で簡潔な仕組や説明が物販やサービスの世界ではあたりまえとなって久しい。
では物流業界ははたしてわかりやすいと認知されているのだろうか?
私見としては「あきらかに否」である。その理由は以下のとおりだ。
わかりにくい業界用語。
わかりにくい見積項目。
わかりにくい業務単価。
わかいにくい想定数値。
わかりにくい見積説明。
わかりにくい=比較しにくい=意思決定しにくい、となるのではないか。
ゆえにいつまでたっても異物扱いされそうだと思えてしかたないし、かかわる荷主企業の部署も社内で異物のような印象を持たれているのではないかと勘ぐってしまう。
実需総量から乖離してバブル化している新設倉庫建設や羊頭狗肉の散見される自動化の利器を謳う前に、他業界が常識とする作法や表現を習得しなければならないと痛感している。
見積作法は他社と比較しにくい単価表現、、、価格競争を予防するためにはやむを得ない。
などという不届き者などいないと思うが、共通項目で単価以外の訴求要素がないということ自体が大問題なのだ。
自社のこだわりや技術の説明を見積書で表現できないのなら、その物流会社の未来は暗い。
荷主は千差万別であり、同業種同業態で同規模であっても各社似て非なる物と捉えなければならないことは最初のヒアリングの基本だ。
「困っていることは何ですか?」
「どうなればよいのですか?」
この二つの質問を突き詰めて行えば、同じ書式で同じ項目の見積書であっても、読み手には別物にしか見えないはずだ。
聴取力は提案力の根拠となり、それは納得と安心を育む土台となる。
お金のハナシはとても重要。
しかしなぜそのお金が要るのかのハナシはもっと重要。
多くを書かず多くを語らない接客作法が主となっても、事の本質は変わらない。
のような言葉を念仏のように唱えて顧客に向き合おう。
そんなことを再確認しながらのよもやま話となった。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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