倉庫会社の見積書に関して、荷主企業からよくある質問のひとつ。
Q:事務費用って何ですか?
A:出荷指示データを現場使用するための加工手間や業務報告の費用です。
などのやりとりが多い。
会社によっては出荷費用や梱包費用、システム等利用料、業務管理費などに、(一式)や(等)と語尾を付して含まれていたりもする。
つまりは統一基準やルールはなく、それぞれが思うままに記述している、というのが実態だ。
持論で強縮だが「物流規格およびその表記の統一」がなされれば、明朗で簡易な見積や請求の明細と業界内共通語による業務説明が可能となる。しかしながら荷主便宜には当然ともいえる制度設計の気配すらないのは残念極まりない。
国交省のネットワークドメインから定期的に拙ブログへの閲覧がある。拙稿をお読みいただいているのはありがたいが、具体的な行動のきっかけとしていただけるならさらに幸いだ。
ハナシを戻すが、物流企業各社の表現の背景に悪意や粉飾は存在しない。
明確な意図によって独自表記を貫いている会社は皆無に近いだろう。
「ずっとそうやってきたから」「これといった不都合がないから」
というのがほぼ全社にあてはまるはずだ。
「なぜ?」と問えば、しかるべきもっともらしい説明は皆がするに違いないが、まさにとってつけたようなものと言える。
回答している本人が「入社した時にはこうなっていたし、特別問題があるわけでもないし」
と内心でつぶやきながらの体であることは珍しくもなんともない。
なによりも「間違っていない」「ごまかしていない」「正当な請求内容だ」などの信念や確信に基づいて吐かれた言葉である。
その点については何ら疑う余地ないところだと思う。
同一条件で他社との比較ができない荷主の不利益を無視しているのだが、無視される側にも「不利益につながるかも」という自意識がないので問題にならない。
しかしながらそれも「今までは」となりつつあるのだが。
物流会社の見積や請求の項目と表記は、「いいわけ」や「めいもく」である。
複式簿記の「借方」「貸方」と同じ関係であり、「理由や説明」と「本当のこと」が等式となってつじつまが合わされている。
特に物流業務では原価の構成要素が非常に単純だから、そのまま利益をのせて請求するわけにもゆかない。
倉庫であれば「床代」「人件費」「資材費および雑費」ぐらいで、最大のコストは「人件費」であることは説明不要だろう。
つまり請求内容の大部分は人件費由来なのだ。
床代や雑費が占める割合はたかが知れている。多くても3割程度ではないだろうか。それ以上ならば、いわゆる「保管勝ち」であり、倉庫賃料で食っている大家商売でもないかぎりは「ぜんぜん儲からない」中身となるはずだ。
つまり見積額や請求額の7割以上が人件費由来であり、いわゆる荷役料と言い換えられている。
手間賃という表現でもいいだろう。
床代、つまり保管料や設備・システム使用料などは、寄託条件に激変がない限り固定請求であるのに対し、入出荷関連費については月次の従量請求になっているはずだ。
入と出を分けた単価請求でも、通過請求でも同じ理屈で考えて差し支えない。
この仕事を何坪で何人でやるか。
この荷をどの車で何時間かけてどこまで運ぶのか。帰りの荷はあるのか否か。
ぐらいしか計算根拠はない。
つまり原価計算はそれぐらい単純な要素で構成されている。
■1200坪、一日平均8時間・18人。
■10t・ワンマン、横浜積→神戸下、19時積込開始、夜間高速、翌朝8時30分着。帰り荷なし。
こんな程度の文字数で原価計算は完了する。
作業項目の単価設定の根拠がいい加減であると言っているわけではない。
実作業の時間計算から導かれた単価であることは当然だ。
現場や営業の業務に年季が入ってくれば、単価から積算した数字と床コストと人件費概算の和に予定利益をのせた数字がほぼ一致するようになる。
いわゆる「場数」というやつであり、属人の極みなので自慢や賞賛の具にする類のものではない。組織内においては、方法論を数式化したりチャート化して、誰でも同じように算出できるように公開することが熟練者・上席者の責任であるし、私自身そう心がけてきたつもりだ。
ハナシをもとに戻す。
掲題の事務費用についても、作業工数と処理時間から総コストの試算が可能だ。
しかし実際には事務職の社員一名と8時間勤務のパート従業員数名がローテーションし、その他もろもろの業務までこなして「一日」「一週間」「一か月」に収まればよい。
事務費用として一件100円やら一行15円やら納品書一枚50円やら、、、
それは他社提示額や自社の経験則から導かれた「言い値」である。
事の肝心は各項目ごとの歩留まりよりも、まずは総額でどうなのか?である。
さらに気が利いているなら「どの項目にポイントをおいているか」である。
保管料や配送料金で頑張る見積は「へたくそ」と評されることが多い理由と同じだ。
比較しやすい数字は意識的に低く提示する、という見積や請求に押しと引きのメリハリをつけることは客商売の基本。わざわざ書かずとも、ほとんどの営業職が心得ている。
事務費用にしてもシステム利用料や維持管理費にしても「出荷」や「保管」関連の費用に組み込んでしまえばよいのだが、単一項目が高単価になったり、「一式」風の体裁を嫌う会社が多いので、小さい単価を設定して細分化された作業項目を設定する。
ある意味「お約束」としてまかり通っているきらいは否めないが、総額が同じなのに設定項目と単価がまちまちといういびつさは延々と続くことになる。
「わかりにくい」「くらべにくい」は排除すべきという信念のもと書いているゆえ、万人が同意納得するとは限らないだろう。
一定以上の混乱や濁りこそ過度の折合いや一蓮托生のわき出る濁った泉だ。
何でもかんでも清き白河をとは思わないが、濁り多い田沼続きでは自らの首を絞める結果に至ってしまうのでは?という老婆心から憂いている真意をご理解いただきたい。
魚は清き流れと濁った淀みの双方を行き来して生きている。
ほどよい是々非々と自覚ある看過。
商いの中身はそんな按配でできているのかもしれない。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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