物流よもやま話 Blog

物流倉庫の洗面所あれこれ

カテゴリ: 経営

倉庫内の洗面所支配率に関しては、男性の劣勢が明らかだ。
造りとしては男女同数になっていても、利用者実数は圧倒的に女性が多い。
というか、作業倉庫ならほとんどが女性で占められる。なので多くの倉庫では男性用の看板に女性用か男女兼用を上貼りし、兼用の場合には「ただいま女性使用中」などの吊り下げプレートが設置されていたりする。

「最新式のマルチテナント型倉庫」と謳う新築物件で、託児所やコンビニエンスストア、従業員用の食堂や休憩所、仮眠所(従業員は仮眠するような働き方が許されなくなっているが、納品の長距離運転手などにはありがたいだろう)、その他ジムや娯楽スペース(終業したらとっとと帰るのでは?)の設置などに各施設が注力しているが、洗面所、、、つまりはトイレの実情に即しているものはいくつあるのだろうか?
作業現場での男性比率が多少は増えそうな今後だと予測してはいるものの、圧倒的多数の倉庫現場では女性の比率が過半どころか控えめに書いても7割~8割相当で推移するだろう。
すなわちその比率でトイレ事情も存在するわけで、少数派の男性たちは、事務所用や建屋内の一か所のみを「男性専用」として使用するのが実情に即している、と第三者的発言を書きながらも「うーむ」と唸っている次第だ。

各種の処遇に男女格差など言語道断。レディファーストは当然のこと。
と普段は正義の味方を気どってフンガフンガと鼻息荒い私だが、実際に庫内のトイレ使用にあたり、順番待ちやわざわざ違う階まで階段で移動してやっと用を足す、、、なんてことになったら、得意のフンガフンガを続けられるか怪しいもんである。
「生理現象解消の機会均等を勝ち取ろう!」
「QOLの観点からも、一定以上のトイレキャパの確保を!」
などと団体交渉の一員に加わりそうだ。
女性たちが過去だけでなく今現在も置かれている不便と不自由と不本意を見て見ぬ振りしつつ過ごしてきた私を含む野郎ども。
割増のしっぺ返しに遭う日も遠くない気がする。
漏れるのは小声での愚痴と文句だけにしなければならないと肝に銘じる次第である。

スーパーマーケットやアウトレットなどの商業施設、大型展示会場、鉄道の主要ターミナル、高速道路のSA、劇場、遊園地などでも同様だ。
女性用トイレには長蛇の列。
男性用はさほど混みあってはいない。
という光景は休日やイベント時には珍しくない。
大衆演芸の芝居小屋なんか、そりゃもうすごいことになる。
なんてったって、観客の95%がオバチャンであり、よほど大きな劇場でない限り、トイレは1か所もしくは2か所がせいぜい。
したがって途中休憩時の女性用トイレには長い列ができる。
たまらんのは、その長い列を横目に男性用トイレに入り、のんびり用足ししている背後で、せっぱつまった鬼の形相のオバチャンが小走りで個室に駆け込む。
その様を見ていた他のオバチャンの中には「その手があったか」的に男性用トイレ前で順番待ちする者が次々にあらわれ、ついには長い列ができ始める。
後からやってきた男性客は、その列に並ぶべきか、無視してオープンスペース設置の小便器に向かうかで、一瞬かしばしかの「えーっと、これは、だからその、、、ん?」といった奇妙な間を経たのち、鉄の意志で目的を遂げるか心で泣きながら撤退に甘んじる。

ということが倉庫内で起こらぬよう、男性が使用可能な洗面所は最低数である「1」もしくは特段のご高配による「2」なのが好ましい。
それで万事丸く収まるのだから、ジイサンやオッサンやニーチャンたちは愚痴や文句やその他もろもろが漏れないように細心の注意と忍耐をもって庫内業務に勤しむのである。
ここまでご理解いただけただろうか?
そう信じて先に進める。

動労者の実態を反映、は洗面所だけにとどまらない。
冒頭に記したとおり、託児所や休憩スペースの充実、企業によっては従業員食堂や売店まで。
そのうち高齢者・母子・父子家庭向け住宅付き倉庫。単身者向け住居付き倉庫。神社仏閣教会付き倉庫、倉庫を核テナントのひとつとした大規模集合住宅の開発、火葬場隣接地下自動納骨堂併設倉庫(自動倉庫WMS転用の無人操作システム完備)、、、もはや何でもありだ。

余談の余談で強縮だが、この十余年来、単層か二層の天井高がある古い倉庫が室内テニスコートやフットサル場として利用されている。正面を塗装やパネル板で化粧して、駐車場を来客用に再整備すれば容易く転用できる。低コストで短工期。特別なノウハウも必要ないので、地味ながらも増え続けている。卓球場やパターゴルフ場、バスケットボールコート、バレーボールコートなど類似施設も目にすることが珍しくなくなった。
恐らくだが、倉庫の賃料収入をしのいで、かつ人手がかからず、手間もかからないのだろう。
大型の新築倉庫が乱立し、立地・築年数・規模・外観・内部設備などで劣る中小倉庫は、建屋の別利用によって転業か副業を考えるべきかもしれない。
高齢者向けの余暇関連サービスなどにはまだ伸びしろがありそうだ。

海外からの旅行者が一様にほめてくれる日本の美点に「洗面所」がある。
確かに他国に比して清潔だし、無料で利用可能な公衆施設も多い。
何よりも評価されるのは安全であることだ。それは建物内や内部の個室に限らず、往来や公共スペース自体からして治安レベルが高い。抑止力や監視によって統制しているわけではなく、単純に潔癖で道徳教育が浸透している国民性によるものだ。

特に高速道路のサービスエリアや商業施設のそれは清潔でデザイン性に優れ、照明や空調の省エネ化、節水、などもわざわざ書くまでもないほどに標準化しつつある。
新築される大規模倉庫も同様で、もはや特別にというのではなく「今はこれぐらい当然」として特筆項目にあたらないまま図面に描かれている。
民間施設であっても、その設置実態は社会資本的蓄積として評価できるのではないだろうか。

大昔からひと昔前ぐらいまでは、トイレ掃除は社会人一年目の基本作業だった。
トイレを清潔にする効用やそうしない先に起こる不幸などを戒める寓話がたくさんある。
陰徳を積む、人材育成の基本、経営の縮図、などの精神論にとどまらない実利と効力の事例も数多い。トイレをはじめとする美装は、失うものなく自他ともに得るものが多い。したがって励行すれば一事が万事のごとく好循環を生む。

清潔な洗面所を維持する国民性こそ誇るべき優秀な国際競争力だと思うのだが、直接経済寄与しないと思われているのか、いまひとつ取り上げ方が鈍い。
日本の倉庫の洗面所は世界最高水準。庫内視察の際には最重要ポイントとして要チェック。
視るべきは物理的美麗ではなく、それを保つ意識のありかた。

そんな広報も大いにありではないのか?
なんてことを想う師走の早朝である。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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